現在の労働市場には「質的余剰」が存在する 配偶者控除撤廃を含めた簡素な税体系が必要

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これに関して、不公正でかつ複雑な税体系をもたらす特別租税措置の簡素化は増税要因だが、消費増税よりも優先されるべき増税メニューになりうるだろう。ところが、実際には、消費増税にあわせた軽減税率導入で税制はより複雑化し、政官による裁量が強まりかねない政策が目につく。残念ながらアベノミクスで実現した政策の中で、供給側を強化する成長戦略について、TPPへの積極参加など少数しか評価できる政策がみられないと思われる(それでもこれまで株価が大きく上昇したのが現実である)。

ところで、労働市場以外にも、日本において供給制約の問題が大きくないことを示すデータがある。製造業の設備稼働率である。稼働率は、企業が持つ生産能力に対する実際の生産量の比率で、製造業の工場の稼働状況を示す。製造業の稼働率指数は、リーマンショック前のピークである2008年1-3月との対比で、2015年9月時点で82%の水準に止まっている。

経済成長率の変動要因

2012年までの超円高や東日本大震災で製造業の工場の海外シフトが進んだことが、円安が進む中で、一部の製造業で輸出や生産指数が伸びない要因になっている側面はあるだろう。また施設の陳腐化で、稼働率算出のもとになる生産能力が過大に計上されているかもしれない(超円高が3年続き、多くの製造業が新規投資をほぼできなかった)。

ただ、それを割り引いても、製造業全体の設備稼働率が2008年初のピーク時の8割にとどまっている意味は大きい。超円高が修正される中で製造業の生産や輸出が増えないのは、中国など新興国経済の減速がもたらす世界貿易量の伸びの停滞という需要側の要因が、大きく影響している可能性を示している。

経済全体の2割程度を占める製造業は、日本経済全体の一部しか示さないとしても、製造業の稼働率の現状は、日本経済において供給面の制約が問題になっていないことを示す一つの材料と思われる。これらの事実は、過去2年の日本の経済成長率が、金融財政政策や海外経済で左右される総需要の要因によって変動してきたことを示している。2016年もこうした経済状況は大きくは変わらないと筆者は考えている。この認識が正しければ、日本銀行による金融緩和策の徹底などが、引き続き経済成長率や日本株のパフォーマンスに影響することになるだろう。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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