マツコは、なぜここまで人の心をつかむのか 相手によって使い分ける絶妙なMCスタイル

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これをほかのシーンにたとえるなら、同僚や取引先へのヒアリングやインタビュー取材。相手の魅力や本音を引き出すためには、マツコさんのように聞き役に徹したほうがいいのです。

レポーター型MCの『マツコ会議』

最後は、マツコさんが一般人と会話を交わす『マツコ会議』『夜の巷を徘徊する』。両番組でのマツコさんは、MCという“上から目線”ではなく、レポーターのような“下から目線”から一般人に話しかけています。

情報番組でよく見かけるレポーターは、「忙しい中で時間をいただいている」という低い立場。マツコさんもそれがわかっているから、一般人に対しては「邪魔してごめんね」「こんなこと聞いてもいいのかしら」などと丁寧に話しはじめますし、いい話なら「ステキ!」「スゴイ!」と相手を持ち上げ、調子に乗りすぎた人には「何だよ!」「やめろ!」とツッコミを入れるなど変幻自在です。

すばらしいのは、このような“レポーター型MC”のマツコさんと話した一般人は、「いい人」「面白い人」などのポジティブな印象が残ること。一般人の目線では、トークがどう転んだとしても楽しいし、オイシイのです。

また、同じ一般人でも、スタッフに対しては厳しく接するのがマツコさん流。「コノヤロー!」「ふざけんな!」と罵倒するシーンをよく見かけますが、これは計算づく。番組が盛り上げるポイントや回数を考え、身内を使って毒舌の出し入れをしているのです。

これをほかのシーンにたとえるなら、取引先での営業。低い立場から礼儀正しく接しつつ、相手の話に乗ったり、ツッコミを入れたり、ときに同席させた部下に毒を吐いたりしながら、距離を縮めようとするのと同じなのです。

4つを使い分けるから売れっ子

「コンビ芸人型」「王道型」「記者型」「レポーター型」。これら4つのスタイルを使いこなせるMCは芸能界の中でもマツコさんだけ。たとえば、明石家さんまさんは、コンビ芸人型やレポーター型をよしとしないでしょうし、爆笑問題の太田光さんも記者型やレポーター型は合わないでしょう。マツコさんがパートナーやテーマを問わずにMCをこなせるのは、4つのスタイルを使い分ける柔軟性があるからなのです。

ここではそのMC術を「対談やブレーンストーミング」「リーダー中心のミーティング」「同僚や取引先へのヒアリングやインタビュー取材」「取引先での営業」と、みなさんの日常にあてはめてみました。マツコさんのトークはMCのときに限らず、一般人にも参考になるものが多いです。

私自身、マツコさんには何度かお会いしたことがありますが、売れっ子タレントになってからも、庶民的で慎重な人柄や、本音で向き合う姿勢はまったく変わっていません。だからこそ自分本位ではなく、パートナーに合わせたMCスタイルを使い分けられるのでしょうし、それこそがビジネスシーンでも大事なことではないか、とも感じるのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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