──カラ売りで利益を得ることが悪質との報道も目立つ。カラ売りは値下がりを予想し、先に売りを立て、下がったところで買い戻すもの。悪質も何もないと思うが。
当然、カラ売りそのものが悪質、ということではないだろう。(報道によれば)市場でカラ売りをかけ、値下がりしたところで時間外取引で買っているようなので、市場をまたぐ不公正取引という点に、SESCが目をつけているのかもしれない。
今年9月7日に日本取引所自主規制法人が公表した、「市場をまたがる不公正取引への対応」では、東証現物市場(TSE)と私設取引システム(PTS=いわゆる立会時間外取引システム)にまたがった取引が、問題視されている。実際、滋賀銀行など4銘柄で同様の手法を使った個人に、今年7月31日付で課徴金納付命令が出ている。
告発はデイトレーダーレベルばかり
──市場をまたぐ取引はなぜ問題なのか。
TSEとPTSでは取引時間がずれている。たとえば、TSEが時間外のとき、PTSで大量の売りが出た銘柄は、値下がりする。TSEの取引が再開されると、その銘柄のTSEの価格は、PTSの価格に連動して値下がりする。市場が閉まっている間に、別の市場を使って株価を操作できるからだ。
──取引終了間際の大量注文も、問題視されているように読めるが、大口の投資家が動けば市場も動く。大口の投資家の場合、取引終了間際の注文は望ましくない、ということなのか。
要は自らの行動で一般投資家を動員し、その結果、一般投資家の利益を侵害するのがけしからんという話だ。ただ、行政判断が市場参加者を必要以上に萎縮させるのは問題だから、刑事責任を問うにせよ、行政処分を下すにせよ、誰が考えても問題と思うストーリーの立証が必要になる。
──過去、SESCが刑事告発した事例の大半は、デイトレーダーのレベルだ。村上氏のような大口のプロ投資家ではない。
素人レベルだから、手口も稚拙で立証が容易だった、ということだろう。
2016年4月には、改正行政不服審査法が施行される。同法によって、行政処分の公正性が今まで以上に確保されるもの、と期待されている。課徴金制度には、審判制度があるので、同法の適用対象外。しかし、刑事責任を問う場合はもちろん、行政処分を下す場合においても、今後は当局のより慎重な判断が求められることは間違いない。
(「週刊東洋経済」2015年12月12日号<7日発売>「核心リポート01」に加筆)
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