村上ファンドは本当に「相場操縦」をしたのか 当局は物言う株主にターゲットを定めたが…

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2006年6月5日、記者会見に臨んだ村上氏。この後、逮捕された(写真:尾形文繁)

──カラ売りで利益を得ることが悪質との報道も目立つ。カラ売りは値下がりを予想し、先に売りを立て、下がったところで買い戻すもの。悪質も何もないと思うが。

当然、カラ売りそのものが悪質、ということではないだろう。(報道によれば)市場でカラ売りをかけ、値下がりしたところで時間外取引で買っているようなので、市場をまたぐ不公正取引という点に、SESCが目をつけているのかもしれない。

今年9月7日に日本取引所自主規制法人が公表した、「市場をまたがる不公正取引への対応」では、東証現物市場(TSE)と私設取引システム(PTS=いわゆる立会時間外取引システム)にまたがった取引が、問題視されている。実際、滋賀銀行など4銘柄で同様の手法を使った個人に、今年7月31日付で課徴金納付命令が出ている。

告発はデイトレーダーレベルばかり

──市場をまたぐ取引はなぜ問題なのか。

TSEとPTSでは取引時間がずれている。たとえば、TSEが時間外のとき、PTSで大量の売りが出た銘柄は、値下がりする。TSEの取引が再開されると、その銘柄のTSEの価格は、PTSの価格に連動して値下がりする。市場が閉まっている間に、別の市場を使って株価を操作できるからだ。

──取引終了間際の大量注文も、問題視されているように読めるが、大口の投資家が動けば市場も動く。大口の投資家の場合、取引終了間際の注文は望ましくない、ということなのか。

要は自らの行動で一般投資家を動員し、その結果、一般投資家の利益を侵害するのがけしからんという話だ。ただ、行政判断が市場参加者を必要以上に萎縮させるのは問題だから、刑事責任を問うにせよ、行政処分を下すにせよ、誰が考えても問題と思うストーリーの立証が必要になる。

──過去、SESCが刑事告発した事例の大半は、デイトレーダーのレベルだ。村上氏のような大口のプロ投資家ではない。

素人レベルだから、手口も稚拙で立証が容易だった、ということだろう。

2016年4月には、改正行政不服審査法が施行される。同法によって、行政処分の公正性が今まで以上に確保されるもの、と期待されている。課徴金制度には、審判制度があるので、同法の適用対象外。しかし、刑事責任を問う場合はもちろん、行政処分を下す場合においても、今後は当局のより慎重な判断が求められることは間違いない。

(編集部注)山口弁護士へのインタビュー後、12月4日に、村上氏はコメントを発表。『相場操縦に関する報道の件について』と題し、「相場操縦をする意図も理由もないこと」「借名口座は使っていないこと」「空売り自体が市場に誤解を与えるものではないこと」を挙げて、一連の報道を否定した。

     (「週刊東洋経済」2015年12月12日号<7日発売>「核心リポート01」に加筆)

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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