金銭的な理由も一つにはあるだろう。簡易なものでも数万円、つけ心地や音声品質にこだわった高性能なものでは30万~50万円と、補聴器はまだまだ高額な医療機器であり、しかも、現在主流のデジタル補聴器は、購入前に専門の技能者による調整を挟まなければいけない面倒さもある。
ただ、それ以上に看過できないのが、補聴器装着への「抵抗感」なのではないかと筆者は推察している。とりわけ若い世代の難聴者の心理は想像してあまりある。筆者が幼少の時分は「めがね」ですら、「がり勉」「老眼」などと冷やかしの対象になったものだ。
気になってさらに追いすがり、各社ホームページなどで訴求ポイントを確認してみると、案の定、基本的には「よく聴こえる×目立たない」ことをKBF((Key Buying Factor=購買要因)として示している。しかし「目立たない」と言っても、「完全に見えない補聴器」をつくることはできない。その訴求には限界があるのではないだろうか。
ネガティブなイメージが試用を躊躇させ、普及の妨げになっている。つまり、人の購買に至る態度変容を表した「AMTUL」で言えば、A=Awareness(認知)→M=Memory(記憶)という段階までは進んでも、T=Trial(試用)で断絶し、U=Usage(日常使用)→L=Loyalty(手放せなくなる)という過程に進まない、と、類推される。
■デコ補聴器の4Pとは
となると、必要なのは価値観の転換を促すコミュニケーションとなる。。上記潜在顧客層を動かす設計を試しに「4P」で考えてみた。
「Product(製品)」としては、「アクセサリー的に積極的に“魅せる”補聴器」というレベルまでデザイン性を高めてはどうだろうか。ネットを検索すると、自ら装飾を施した「デコ補聴器」を作り上げるユーザーも登場している。愛知県岡崎市の「あいち補聴器センター」では、「難聴児らが補聴器を嫌がるのに悩んでいた時、携帯電話を飾りつけたデコ電や、デコカメラを紹介するテレビ番組を見て、取り入れようと思いついた」(2012年5月26日付け朝日新聞、「『隠す』から『おしゃれ』に、デコ補聴器 子ども向け→高齢者に好評」)という店長の発案により、知人のネイルアーティストと共同で始めたオーダーメードの装飾サービスが受け、「これまでに4歳から80代まで男女約40人から注文を受けた」(同)という。
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