幻に終わった米国とパキスタンの核交渉

イラン合意に続くオパマ氏の功績とはならず

米国が原子力供給国グループ(NSG)に対し、すでにインドに行っているのと同様に、パキスタンにも例外的措置を認めるようプッシュすれば、同国は原子力発電所を建設するために必要な技術や部品を輸入できるようになったはずだ。

パキスタンの電力不足を補うためには、現在カラチ付近で中国が建設中の2カ所に加え、さらに6カ所の原発を新設する必要がある。

だが、引き換えにパキスタンは保有する戦術核兵器の数を制限するよう求められ、その開発作業も停止しなければならなくなる。さらに、短距離ミサイル「ナスル」をお蔵入りにせざるをえなくなる。

米国は、核技術に関するパキスタンの中国への依存を抑制し、南アジアでの壊滅的な戦争のリスクを軽減できると期待した。だが米国は、パキスタン軍部のインドに対する危機感を考慮に入れていなかった。

軍高官らは、自国におけるテロリズムの排除に集中してきた。だが近年、インドによるパキスタン国境付近での基地建設活動は、イスラマバードの警戒心を刺激している。

パキスタンの軍高官の話では、インドは軍の「コールドスタート」ドクトリンの一環として、重装甲車が配備される八つの基地を建設している。再びテロ攻撃が発生した場合に、インド軍が300~500平方キロメートルのパキスタン領土を迅速に占拠するためのものだ。

その占拠は、パキスタンがカシミール地方の領有権に関する主張を放棄し、同国内のすべてのテロ訓練キャンプを取り壊すまで続く。前述のパキスタン軍高官は「戦術核兵器はインドがこの戦略を実行に移すことを抑止するものだ」と話す。

パキスタンは逆に対中依存を強めた

こうした背景からすれば、パキスタンに核兵器戦力を制限させる試みが失敗に終わると米国はわかっていたはずだ。パキスタンの中国依存は、弱まるどころか強くなってしまった。ホワイトハウスの計画は、南アジアにおける核の対立の可能性を抑制する代わりに、インドとパキスタンの緊張関係に対処しようとする取り組みへの注目をそらしてしまった。

オバマ大統領とシャリフ首相の声明は印パ関係を強調し、核問題には触れなかった。オバマ大統領は未解決の問題としてカシミール地方に言及し、南アジア問題における安定性を求めた。アジズ氏によれば、最終版の声明にパキスタンは満足していたという。だが、米国は心中穏やかではなかったかもしれない。

週刊東洋経済12月5日号

 

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