街角に住む猫には、過酷な運命が待っている ペット界の新王者「猫」を取り巻く光と影<下>

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ただ、確率は低いが、健康に育てばセンターと連携している愛護団体などに引き取られ、飼い猫になる可能性は残されている。住宅街や河原などに捨てられて、無残な死を遂げることは避けられるのだ。

都も繁殖制限の重要性を認識。自治体によって額や条件は違うが、不妊・去勢手術に助成金を出している。文京区ではモデル地域内の場合、飼い主のいない猫の手術を全額補助する。港区や新宿区などは、飼い猫の手術でも一定額を支給している。

筆者が里親探しを始めたきっかけは約3年前、多頭飼い崩壊で捨てられた猫を助けたことだ。1人暮らしの男性が拾った猫数匹が、不妊手術を怠っている間に急増。1年足らずで6畳の部屋に20匹以上がひしめいた。男性は親猫を保健所に送ったが、子猫は殺すに忍びず数匹ずつに分け、広い公園に捨てた。彼が助成制度を知っていたら、状況は違ったかもしれない。

中途半端な善意が地獄を作る

この猫たちはボランティアが不妊・去勢し、公園で餌をもらうことになった。しかし、一部はその後、夜の公園で暴行を受けて死亡した。会社員の「かわいそうだから連れて帰ろう」との善意がこんな地獄を生み出した。

川崎市の愛護センターに残る炭酸ガスによる殺処分設備。5年前から停止している。左の段ボールの中では、猫がのんびりと寝ていた。

こうした例は枚挙にいとまがない。だが、今回の連載取材で訪れた川崎市動物保護センターで、2013年4月に74匹の多頭飼い崩壊が起きたと聞かされた時は、さすがに驚いた。

大半の猫は引き取られたが、現在も飼い主募集中の数匹は、ガスによる殺処分設備(約5年前に稼働停止)が残る部屋のケージ内で寝ていた。皮肉な光景ではあるが、「里親探しすると決めた動物は殺さない」(角洋之所長)方針に沿って世話を続ける犬や猫の数が多すぎるため、ほかに置き場所がないのだ。

また、ボランティアには人目を避けて餌を撒き散らして後始末をしないなど、マナーが悪い人も多い。彼らに対する猫嫌いの人々の反感が、虐待につながっている側面も、確かにある。

前述の都の2011年度調査では、外にいる猫の糞尿や鳴き声を「迷惑だ」とした回答率は62%、野良猫への餌やりを「良くない」と答えたのは58%に上る。善意から出た行動でも、決して地域に歓迎されてはいないのだ。

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