東急グループが「空港運営」に情熱を注ぐ理由 だから彼らが仙台空港の運営権を勝ち取った

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LCC対応にも力を入れ、北京、上海、台湾など4時間圏の直行便を拡充。LCC向け旅客搭乗施設も新設し、現在16%にとどまる全旅客数に占めるLCC旅客数の比率を、30年後には50%近くまで高めたいという。

空港アクセスは、鉄道会社である東急の得意分野。現行の仙台空港アクセス線の利便性を高め、仙台駅での新幹線との乗り継ぎを容易にし、東北各地や首都圏との行き来を活発化したいとした。

東急案は旅客数の目標値、空港利用者の利便性、設備投資といった項目で高い評価を獲得し、第一次審査に続き第二次審査でもトップに立った。

国交省が公表した審査講評によれば、コンセプトが具体的か、提案は実現可能か、将来像が明確にイメージできるか、がポイントとなった。設備投資額や運営権対価の多寡、資金調達の確実性も審査の対象とされた。

東急陣営は運営権対価として22億円を提示。三菱地所・ANA陣営は運営権対価の額で最も高い評価を獲得したが、トータルでは東急陣営にあと一歩及ばなかった。

今後は、12月に実施契約を締結した後で業務をスタート。来年2月にターミナルビル施設事業を開始し、6月までに業務の引き継ぎを終える予定だ。

JASがいたから空港に力を入れてきた

かつて東急は系列企業に航空会社を有していた。日本エアシステム(JAS)である。一時は日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)に次ぐ第三極の地位を確立したが、2000年代に入り、経営難からJALに実質的に吸収されてしまった。

今回の空港運営ビジネスへの進出は、撤退を余儀なくされた航空ビジネスへのこだわりを表しているものなのだろうか。この点について、東急の多くの関係者が「まったく関係ない」と否定した。とはいえ、「(グループ内に)JASがあったために、グループ各社が空港ビジネスに力を入れたという面はあるかもしれない」との発言もあった。

仙台空港の民営化が軌道に乗れば、次の空港民営化案件に手を挙げる可能性はあるのか。東急電鉄の高橋和夫常務は「空港運営事業を立ち上げるからには、やらないほうがおかしい」と、極めて前向きだ。

ただ、東急が他案件に進出するのかどうか、そもそも、ほかの空港で民営化プロセスが進むか否かも、仙台空港の成否次第。それだけに、杜の都で失敗は許されない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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