「安定化」が課題の中国、世界経済の牽引役は返上

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なりふり構わぬ「4兆元」大投資はこれとは逆行。住宅バブル、インフレ、過剰設備を生んでしまった。また、地方債務の問題を深刻化させた。「4兆元」のうち1・25兆元は地方政府の負担分だが、日本の固定資産税のような固有の財源を持たないため、地方融資プラットホームというダミー会社で借金を抱え込んでいる。この不良債権の処理と、将来へ向けた税制改革も課題だ。

今の中国は1970年代の日本と同じステージにある。一時期、住宅バブルが日本の80年代後半のバブルと比較された。しかし、それほどには地価は高騰しておらず(図)、どちらかといえば、日本の列島改造時代と似ている。だから、需給面で適切なコントロールを行えば、その吸収は何とか可能だ。

一方で、中国は70年代の日本よりも困難な状況にある。「毛沢東の急進左派路線が30年経って崩壊したように、改革開放路線も従来型の容易なところだけ手をつけ、面倒なところは先送りするやり方が限界に来ている」(田中特別研究員)。

薄氷踏む経済運営

低成長に移行する中では、貧富の格差の是正と社会の安定化のために、国有企業による独占体制の打破、既得権益層への切り込みなどの政治改革が不可欠となる。だがもちろん容易ではない。重慶市党委員兼書記だった薄熙来氏の粛清などは象徴的な事件だ。

今年秋に予定される第18回党大会で、習近平氏が胡錦濤国家主席の後継に選ばれる予定である。首相候補は改革派の李克強氏(派閥は中国共産主義青年団)だが、習氏(党高級幹部子弟の太子党出身)が、既得権益を牛耳る江沢民氏らの上海閥を抑えて、改革を進めることができるかどうかが、注目されている。

さらに厄介なのが、一気に進展する少子高齢化の問題である。中国は農村部から都市への労働人口の供給が底を突き、労働力不足となる「ルイスの転換点」をすでに迎えたとされている。加えて、一人っ子政策の結果、近々に生産労働人口は減少に転じる。この時期は、15年とみられていたが、来年ではないか、と見通しが早まっている。日本の生産労働人口がピークアウトしたのはルイスの転換点からは30年遅い97年である。年金や医療などの社会保障制度の整備が間に合わないまま高齢化社会に突入すれば、負担に耐えられないかもしれない。

また、金融の自由化・国際化も大きなハードルだ。中国は20年に上海を国際金融センターにするとブチ上げており、資本取引の自由化、人民元レートの自由化、金利自由化をそれまでに完遂する計画だ。

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