「ゾス!」の会社と起業ブームに共通する短期志向の陥穽、経営学者は「ザ・ノンフィクション」炎上回をどう見たのか【後編】
光通信は強固な営業力で高収益を誇ったが、2000年3月、DDI(現KDDI)に対する大量の架空契約(寝かせ)が発覚し、株価が急落した。厳しいノルマや叱責、過剰な高揚感を強いる組織風土は、一時的な成果を上げたものの、多くの離職者や心身を病む者を生み出した。
この不祥事の根底には、「数字こそが自己証明である」という歪んだ価値観があった。そこでは顧客への価値提供や社会貢献といった視点は欠落し、関心の主語はすべて「自分」に集約されている。自分がどれだけ充実し、達成感を得て、成長できるかという「自己の体験」そのものが目的化していたのだ。
こうした「自分第一主義」が組織に蔓延すると、顧客は自らの力を証明するための「道具」に成り下がる。誠実さよりも自分の営業成績という「物語」を優先したとき、倫理的な一線を越える心理的な壁は、いともたやすく決壊する。
起業ブームにも通ずる短期志向のワナ
松下幸之助氏(パナソニック創業者)が「水道哲学」を語り、本田宗一郎氏(ホンダ創業者)が「人々の自由な移動への貢献」を説いたのは、社員に仕事を単なる自己実現の道具ではなく、社会に役立つ使命として捉えさせるためだった。「もっと数字を出せ」ではなく、「契約を取った先の顧客は、どのように変わったか」を問う上司がいれば、仕事の意味は根本から変わるはずだ。
近年の「若者起業ブーム」もこの文脈で読み解ける。大企業においても、リストラや事業売却が当たり前になり、成長も止まったことで、起業は特別な挑戦ではなく合理的な選択肢へと変わった。さりとて、起業したいという思いが「CEO(最高経営責任者)という肩書が欲しい」という段階にとどまる限り、それは自己成長の延長にすぎない。
実際に起業件数が最も多いのは40代だ。「挑戦するのは若者、成功するのは経験者」という役割分担が生まれているとすれば、「効率よく手っ取り早く起業する」という発想自体に根本的な矛盾が潜んでいる。
株主重視の経営のもとで四半期決算主義が世界を席巻し、今や戦争中のアメリカの大統領までもが金融市場への影響を気にするようになった。四半期ごとに結果を問われる経営者は3カ月単位で思考し、現場の若手は今日・明日の数字だけを追いかける。入社3カ月で「売り上げゼロ」と評価され追い詰められる構図は、こうした短期志向が連鎖した末端で起きている。



















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