疲弊する消防団、わずかな訓練・装備と報酬で危険な任務--震災が突きつけた、日本の課題《1》/吉田典史・ジャーナリスト
そして、消防団を取り巻く環境が変わりつつあることが、この「救護被災」を一層、難しくしたと分析する。
「たとえば、100年ほど前の震災ならば、堤防や防潮堤はない。住民は地震の後、高台に向けて避難するしかなかった。今回は、強固な堤防や防潮堤があったことで、住民の避難意識が鈍くなったことは否定できない。これも、団員を危機にさらした」
団員の職業構成と「救護被災」との関係にも言及した。昨年、宮古市の消防団第28~33分団の団員70人ほどにアンケート調査をした結果を受けてのものだ。
調査では、団員の職業は4割近くが会社員、自営業が2割弱、農林水産業従事者が2割弱だった。会社員のほとんどが、所属する消防団が担当する地区とは離れた地域に勤務していた。震災発生時には、70人ほどの半数近くが仕事などのため、担当地域外にいた。松尾氏はこう指摘する。
「彼らが担当地区に向かうときには、交通渋滞が発生していた。活動に参加できない人は、70人ほどのうち約20人いた。担当地区にいる自営業や農林水産業従事者の団員が、たとえば30人で対応をする避難誘導を、15人ぐらいでせざるをえなくなった。指揮をする分団長が不在で、取り組まざるをえない団もあった。これらも、大きな負担とリスクになった」
高齢化や過疎化が進んでいることも負担になった。筆者が昨年8月に取材した宮城県東松島市では、足腰が弱く、素早く避難することができない高齢者がいたため、団員の避難誘導が危機にさらされた事例がある。
高齢化や過疎化が進むと、団員の数を維持していくことが難しくなり、これが一段と自営業の団員らを苦しくさせることも指摘されるべきだろう。前述した吉田氏は、11年前に消防団に入った経緯を打ち明ける。
「地域のために役立ちたい、という思いは強かったが、自分のように自営業をしている人は入らざるをえない雰囲気があった。他の自営業の人もそれに近い思いで入団したケースが多いと思う」
高齢化や過疎化が、消防団に重くのしかかっていることが見えてくる。
便利屋として使われている?
消防団は、特に地方では欠かせない存在である。岩手県では、消防本部の職員の数は1930人(11年8月現在)、団員は2万3419人(10年4月現在)。団員は消火・救助活動などの技能の面では消防本部職員に劣るが、「地域を守りたい」という意識はむしろ、上回るように思える。