疲弊する消防団、わずかな訓練・装備と報酬で危険な任務--震災が突きつけた、日本の課題《1》/吉田典史・ジャーナリスト

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筆者が取材した北関東の消防本部職員の司令長は、「団員のこの強い意識に、技能が伴わないことが、震災当日に裏目に出た可能性がある」と指摘していた。

消防団の役割が、常備消防などと比べてあいまいであることも、団員には負担となる。たとえば、東松島市の消防団は震災発生直後から3カ月の間、行方不明者の捜索、遺体の搬送などに取り組んだ。

分団長や団員によると、消防本部の職員は遺体を見つけた後、団員が集まる場所には運ぶが、そこから先の遺体安置所には搬送しなかった。消防職員は、分団長に「消防本部は遺体の捜索はするが、搬送はできないことになっている」と答えたという。そこで団員が遺体安置所に遺体を運んでいた。

東松島市には航空自衛隊の基地があり、多数の隊員がいる。基地の近くで遺体を見つけた隊員からも消防団に連絡が入り、「遺体を搬送してほしい」と頼まれた。分団長が尋ねると、隊員はこう答えたという。「陸上自衛隊は遺体を搬送することができるが、航空自衛隊はそのような訓練をしていないから、運べない」。

通常、1人の遺体を運ぶとき、3~6人の団員がかかわる。搬送には、自家用の軽トラックなどを使う。遺体の体液が台につくが、それも自分で洗う。

行方不明者の捜索や遺体の搬送、さらに遺体安置所までの搬送をしていたのは、消防団と陸上自衛隊だった。しかも、この頃、団員には家族を失い、当時、行方がわからない人もいた。家が破壊された人もいた。

自治体や住民、他の捜索機関などが、消防団に頼りすぎている面があることも否定できないように思える。被災地の団員の中には「便利屋として使われている」と不満を漏らす者もいる。働きに応じた待遇を与えられているならばともかく、報酬は少ない。

消防庁によると、全国の消防団員88万人は各市町村から、1人につき年間で数万円の報酬が支給される。

東松島市は現在年額4万3000円、陸前高田市は同2万2400円。ともに団員(役職なし)のもの。団長や副団長の場合は10万~20万円を超える自治体もある。災害や火事などの1回の手当は、1500~3000円ほど。報酬の多くは退団時に支給されるため、在籍中は無償となるケースもある。消防団が「ボランティア」と言われるゆえんである。

団員として活動を続けることは難しい

松尾氏は消防団を取り巻く環境の変化として、行財政改革も挙げた。特に05年から「三位一体改革」として始まった、補助金制度の廃止である。以前は、自治体の消防団の予算は、国から各自治体への「補助金」として与えられるものが中心だった。この補助金は、「消防防災施設等整備費補助金」と呼ばれていた。

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