仏高速鉄道「TGV」脱線事故はなぜ起きたのか 同時テロの影で発生したもう一つの大惨事

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しかし一方で、混乱を隠すために政府が本当の理由を公表していないが、やはりテロが原因ではないのか、と疑う人も少なからずいる。まず、ブレーキが故障したのならいざ知らず、計測機器を多く積み込んでいる試験車両が、この先線路がどのような状態になっているのか、どの程度の速度で走れば良いかが分からないはずがない。それに信号装置を監視するシステムを搭載した試験車両であれば、信号のトラブルというのも考えにくい。そこで他に要因、すなわち何らかの外的な力が加わったことで、脱線に至ったのだ、という指摘だ。

フランス各地で活躍する、現在の主力車種TGV-Duplexは、2階建てとしたことで、従来型車両と比較して40%座席数が増えた。現在も増設が続く

また爆発音と、その後車体が炎上したという話も、テロではないかと疑いの目を向けられる要因となっているが、前述の通り、その爆発音が脱線の先か後で、まったく話が変わってくる。脱線より前に爆発が起こっていたとしたら、テロであろうとなかろうと、それが事故の原因かもしれないと推測できるし、脱線の後であれば、それが原因で生じた音という可能性が高くなる。

また火災の発生も、脱線した車両が架線柱をなぎ倒し、交流25Kvという高圧電流が流れる電線が切れて地面に接触、周辺の土地を含めて炎が上がったということも考えられる。そもそも、確かに写真では運河を跨ぐ鉄橋付近に煙が立ち込め、オレンジ色の炎が上がっているのを見ることができるが、爆発によってできるであろう、線路や車体の破壊は、画像からは確認できず、テロの可能性は低い。

2年前にもスペインで類似の事故

では、主たる原因として考えられている速度超過を起因とする事故だとして、どうしてそこに至ったのか。そこで思い出されるのが、13年7月に発生したスペインの高速列車脱線事故である。で、その時も高速新線から在来線への接続部分で、速度超過した列車がカーブを曲がり切れず横転し、多数の犠牲者を出す事故となった。

日本の新幹線のように、すべての区間を専用線で走るシステムではないヨーロッパの高速鉄道は、停車駅となる各都市付近では、必ず在来線への接続部分があり、そこでは信号システムのみならず電源まで切り替える国も多い。もちろん、切り替えている最中にまったく信号が作動しないシステムというのは、あってはならないことだが、スペインでは実際に事故が起こってしまった。営業運転より上限の高い、高速運転をする試験ということで、信号装置の電源そのものを切っていたことも考えられるが、いずれにしても早期の原因究明が待たれる。

報道でよく耳にする「新幹線の安全神話」などというのは、勝手な妄想に過ぎない。その裏で、日本のJR各社が事故を起こさないよう、常に緊張感をもって日々運行を続けてきたからこそ、いまだ開業以来、鉄道会社側を起因とする死亡事故ゼロを続けていられるのだ。新幹線は信号システムを含め、何重にもフェイルセーフの備えをしており、同じような事故が起きることは考えにくいが、今後原因が解明されれば、新幹線が教訓とすべき点が出てくるかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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