ヨーロッパは「鉄道テロ」とどう戦っているか 日本も備えをしなければ大変なことになる

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国際高速列車タリスは、フランスのパリとベルギー、オランダ、ドイツを結んでいる。テロ事件は、アムステルダム発パリ行きの車内で発生した

2015年8月21日夕方、アムステルダム発パリ行きの国際列車タリス車内で、テロ未遂事件が発生した。英国BBC放送の報道によると、事件は午後5時45分、リールを出発しフランス北部オワニー付近を走行中のタリス車内で発生、乗客のフランス人がトイレの前を通った際に不審な物音に気付き、トイレから出てきた男を取り押さえようとしたところ、男は所持していたAK-47カラシニコフ自動小銃を発砲した。

発砲によりトイレ付近にいたアメリカ人を含む2人が負傷。この列車に乗り合わせていた旅行中のアメリカ軍兵士と、その友人の大学生ら3人が容疑者に立ち向かい、取り押さえることに成功した。その後、列車はフランス北部アラス駅に緊急停車し、容疑者の男はその場で逮捕された。当時、列車内には550人の乗客がいたという。

一歩間違えれば大惨事に

逮捕された容疑者は、イスラム過激派組織に属する26歳のモロッコ国籍の男性で、シリアへの渡航歴があった。警察の調べに対し、容疑者はテロを起こす計画を進めていたことを認めており、実弾270発を装填した自動小銃と、ガソリンの入った容器のほか、ナイフなど複数の武器類を列車内に持ち込んでいて、事前に周到な用意をしていたと述べている。

フランス政府は、武装する容疑者へ勇敢に立ち向かい、ほかの多くの乗客に深刻な被害を及ぼす恐れのあった今回の事件を未然に防いだ米国人3人と、同じく協力をしたイギリス人、フランス人にフランス国内で最も権威あるレジオン・ドヌール勲章を授与した。

今回のテロ未遂事件は、たまたま乗り合わせていたアメリカ人兵士たちが、映画さながらの活躍で未然に防ぐことができたが、一歩間違えば大惨事になりかねない状況だった。容疑者は、以前よりフランス国家情報部にマークされていたにもかかわらず、実際寸前のところまで防ぐことができなかった。

航空機と異なり、ほとんどの列車は乗車前に手荷物検査を受けるわけではないので、乗客が危険物を持ち込んだとしても、それを見つけることは困難に等しい。今回も、偶然トイレ内で不審な物音がすることに気付いた乗客たちの機転のお陰で犯人を取り押さえることができたが、誰にも気付かれなければ事件を防ぐことはできなかっただろう。

欧州では、テロ事件というのは決して珍しいことではなく、それなりの頻度で発生している。2015年に入ってからだけでも、1月にフランス週刊誌の本社がテロリストに襲撃され、多数の死傷者を出す事件が発生。その後ベルギーやチェコ、そして今回のタリス車内と、類似するテロ未遂事件が続いている。日常生活において、一般市民も決してテロと無縁ではない。

鉄道がテロの標的になることも、これまでしばしばあった。1980年8月2日10時25分、イタリアのボローニャ中央駅1番線にある待合室内で爆弾が爆発。ちょうど夏休みの真っ只中で、多くの旅行客が駅で列車を待っていたこともあり、死者85名、負傷者200名以上を出す大惨事となった。

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