戦場では「前方」と「後方」に優劣はない…元・陸自幹部が【縁の下の力持ち】を評価すべしと説く納得感
「急速に変化する戦場においては、従来のように上司の指示を待っていたら勝てない。これからの軍には、命令にただ従う兵士ではなく、状況に応じて自ら考え、行動できる人材が必要だ」
米陸軍工兵学校では、この「過激」とも言えるトップの発言を支持するかどうかを論じよ、という課題が最初に出されました。
将来、指揮官や幕僚として部下を率いる立場に立つ学生たちにとって、それは「自分で考え、決める覚悟」を試される踏み絵でもあったのです。
「考えられない」のは「状況が見えていない」こと
では、なぜ自分で動ける人と、そうでない人が分かれるのか。私が出した結論は、前者は「状況が見えている」ということです。
「状況」とは、自分を取り巻くあらゆる条件のことです。
任務、相手(敵・顧客)、地域や環境、そして時間――。これらを正しくつかめていないと、判断はブレ、行動は他人任せになります。
私は自衛隊の中隊長時代、訓練前に、ある試みをしました。第二次世界大戦末期、連合軍が策定していた「日本本土侵攻計画(オリンピック作戦)」の作戦図を部下に見せたのです。そこには、米軍の九州南部への上陸の日付から、攻めてくる兵力の規模、侵攻ルートまでもが詳細に描かれていました。
私自身、米陸軍工兵学校ではじめてこの図を見つけたとき、背筋が凍りました。国防を担う1人として、自分の仕事の意味をこれほど強く意識したことはありませんでした。
私の中隊は、有事を想定した訓練のなかで、敵の上陸を食い止めるために、海岸部に障害物を構築する「水際(すいさい)障害中隊」でした。第一線で上陸阻止を担う役割です。
だからこそ、目の前に示された「敵の上陸の様相」を描いた作戦図は、決して「他人ごとではない」シナリオだったのです。
図を見せた瞬間、空気は一変しました。冗談交じりだった雰囲気が消え、静けさが流れ、全員が図を凝視していました。ベテランは息をのみ、若い隊員は緊張気味に手を握りしめていました。
古い作戦図ですが、リアルな状況を可視化したことで、任務は一気に「自分ごと」へと変わったのです。


















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