「北極海航路」の研究投資は予算の無駄遣いだ コストも安定性も多様性も期待できない
この商船三井の計画にしても、夏冬を問わず継続輸送する欧州向けのヤマル-ムルマンスク間のシャトル輸送を基本とするものであり、日本向けは臨時ボーナスを期待するものなのだろう。
以上、見てきたように北極海航路はあまり期待できないということだ。
北極海航路については、経済性とは別にリスク回避も利点に挙げられている。海賊リスクや中東での政治リスクが少ないといったものだ。
だが、残念ながらこれも現実味はない想定である。リスクとされる南シナ海、マラッカ海峡、アデン湾、スエズ運河のいずれか、あるいは全てが使えなくなっても北極海航路は選択されず、ロンボク海峡-喜望峰の南大回りが選択される。
実質的な距離の短縮は大きいが・・・
一見、南大回りは遠回りに見える。距離について日欧間ではなく、輸送実態から上海・広州-ロッテルダム間を比較すると北極海航路1.5万キロ(上海-ロッテルダム)であり、南大回りは2.7万キロ(同)になる。これだけをみればたしかに距離の短縮効果は大きいように見える。
だが、距離は倍でもやはり南のほうが有利にある。まず従来のスエズ・マックス・クラスの大型船を使えるため輸送コストは安くなる。また、足許を見たロシアに通行料を釣り上げられるおそれもない。輸送容量でみても、利用可能な船舶数も比較にならないほど多く、北極のように先導船の数で制約をうけることはない。
南大回りを補完する航路にしても、おそらくパナマ経由の東回り輸送(同2.5万キロ)が選ばれる。船幅制限と待ち時間の問題があっても、やはりパナマ・マックスを利用できる点で経済的に圧倒するためだ。
北極海航路は、どうみても現実味がないのである。たとえ開発に向けた研究を行ったとしても検討にとどまり、実用化は困難だ。であれば、あまりここで無駄遣いをするべきではないだろう。
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