「北極海航路」の研究投資は予算の無駄遣いだ コストも安定性も多様性も期待できない

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北極海航路は輸送需要に合致しないといった問題もある。今のところ日欧間で専用船を仕立てて運ぶものはない。この点も航路の実現性を怪しくする。

そもそも、海上輸送の基本となるコンテナ船には日欧直行便はない。日本発着は中国-欧州間のコンテナ輸送に便乗する形となっている。実際に欧州向けコンテナ船は、日本から中国(華南)に向かい、そこで大量の荷物を搭載し、その後シンガポールに立ち寄って、東南アジアからの貨物を載せてロッテルダムやハンブルクに向かう。その輸送需要の中心はあくまでも中国-欧州間の輸送である。ある意味、日本の分はついでにすぎない。

まず、日欧直行の北極海航路といった前提に現実味がないのである。たとえれば新幹線の仙台駅-大阪駅のノンストップ直行便を検討するようなものだ。輸送需要の中心となる東京(上海・広州)をトバして大阪までいく定期便は成り立つだろうか? 

コンテナ輸送で迅速な日欧直行便が必要なら、鉄道輸送となる。今ならシベリア・ランド・ブリッジや、将来的にはチャイナ・ランド・ブリッジが選択されるだろう。日本から欧州までの海上輸送距離が短くなるといっても、経済的でもなければ安定利用も難しく、需要に見合った経路でもない。速度で鉄道に負け、コストで南回りのスエズ・マックスに負ける。

北極圏の資源開発も確実ではない

資源輸入の面でも北極海の条件は最悪だ。今後、北極圏での資源開発は進捗は困難である。石油・天然ガスの価格は下落しているため、高コストとなる北極圏での新規開発は凍結される傾向にある。原油価格が多少上がっても、より条件のよいシェールガスやオイルの採掘や超重質油の改質が先に動き出して需要を満たしてしまう。イニシャルコスト、ランニングコスト、労働力確保、輸送費、環境問題で高くつく北極圏での採掘は後回しとなり、まずは動き出さない。

既存ガス田からの輸入でもLNGタンカーでの対日輸送は経済的かは疑問点が残る。パイプラインで不凍港に回せば耐氷の専用船は不要であり、輸送としても安定するためだ。

実際に商船三井がヤマル(ロシア)のガスを日欧に運ぶ話がある。だが、特に日本向けの長距離輸送は夏にしかできず、またLNGの蒸発損(0.6%/日)や、既述した商船サイズからのスケールメリットでの不利は大きい。この送り方は、あまり効率的な手段には見えない。

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