「北極海航路」の研究投資は予算の無駄遣いだ コストも安定性も多様性も期待できない

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諸費用の負担も大きい。神戸大学の石黒一彦さんによれば「ロシアは航路使用料と案内料として総トンあたり5ドルを徴収することになっており、別に保険料金が総トンあたり2ドル掛かる」(『海運経済研究』2015年 pp.11-20.)とのことだ。

仮にヤマルにあるロシアガス田から10万トンクラスのLNGタンカーを運行するとすれば、これらの経費だけで70万ドル掛かる。対してスエズ運河の利用料は各種の価格設定や計算式があるが大型船ではトンあたり(スエズ運河トン:SCNT)でおそらく4ドル未満に留まることとは対照的である。

なによりもスケール・メリットを活かせない点で不利だ。日本郵船の合田浩之さんは「北極海航路は輸送需要からしても大型船はありえない。この点で巨大船を使える南回りに対して不利となる」(『海運』2015.2 pp.16-19.)と指摘している。

実際に海上輸送では、船体規模拡大でコスト低減を追求してきた。サイズと輸送量を倍にしても運航経費は4割も増えないためだ。そして南回りでは北極海用の3~10倍のサイズを持つようなスエズ・マックス、マラッカ・マックス、さらにはポスト・マラッカ・マックス船のような経済性を追求した超大型船を利用できるのである。

安定利用も難しい

また、北極海航路は安定利用にも問題を抱えている。まず冬期は使えない。この点で専用船舶を作っても回転率で不利であり償却は厳しい。もちろん冬期は別用途に使うとしても、商船はその経路に最適化されて建造される。運航の効率は悪い。

夏でも安定航行できるとは限らない。航路は低気圧の墓場であり、悪天候も多い。その厳しさも南回りの比ではない。海が荒れれば計画上の予定速力は出せなくなる。嵐ともなればヒーブ・ツーという船首を風に向けた超低速航行を強いられる。その日はにっちもさっちもいかない。地図上の輸送距離は短いかもしれないが、平均的な輸送日数の短縮が見込めるかは怪しいところだ。

航路支援が絶無といったリスクもある。今ではGPSでわかるので灯台は不要かもしれないが、現在位置が判ったところで海図未整備ではどこに浅瀬といった危険があるのかがわからない。また落水者や急病人、船火事等での沿岸国の救援も期待できない。

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