米国が「リニア構想」進展に傾き出したワケ 政治的対立が残る中で調査費が承認された

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だが、この「レッドライン構想」は、共和党のホーガン州知事が中止を決定してしまっている。そのホーガン知事は「リニアに惚れ込んでいる」のだから、ローリングス=ブレイク市長とカミングス議員は当然の成り行きとして「アンチ・リニア」に傾くということになる。

その結果として、この「東海岸リニア構想」に関しては、鉄道プロジェクトとしては珍しく、民主党の市長と下院議員が反対に回り、共和党の知事は推進に回るという「ねじれ」が生じてしまっていた。

LRT構想とリニア構想のあるボルチモアの街(写真:AKO/PIXTA)

そこで、今回来日したフォックス運輸長官の存在が重要になってくる。フォックス長官は、オバマ政権の2期目がスタートした2013年に入閣するまでは、ノース・カロライナ州の大都市シャーロットの市長を務めていた。

シャーロットは金融センターとして発展する一方で、格差の問題も抱えていたのだが、都市の活性化のためにフォックス市長(当時)はLRTを導入して成果を収めた。そしてLRTの成功事例として全国から視察団が訪れるという状況となり、その評価が入閣につながったのである。

つまり、自分も黒人であるフォックス長官は「市長としてLRTを成功させた」という象徴的な人物でもある。その長官がリニアに試乗して「調査予算にゴーサインを出した」というのは、要するに「レッドラインもリニアも両方進める」ということだ。

調査予算承認が示す意味は?

もちろん、どちらのプロジェクトも、今後の紆余曲折は避けられないだろう。だが、現時点での政治的な流れはそういうことだ。いずれにしても、そのような政治的な意味でも「キーマン」であるフォックス長官が、今回の試乗、そして調査費予算の発表を行ったということは注目に値する。

ホーガン知事は6月の試乗後に、地元メリーランド州の各メディアに「リニアへの情熱」を思い切り発信しており、今回のフォックス長官の試乗ということも含めて、地元では「リニア」に関する報道は盛んになってきた。それとともに、投資総額が100億ドル(1兆2千億円)という大規模プロジェクトとなること、その半額に関しては日本サイドが資金を用意することなども報じられている。

そして、今回の調査費予算というのは、その巨大な投資額を「できるだけ正確に見積もる」というのが主目的だということもフォックス長官が再三強調したことで、かなり正確に報じられている。

現状はそのような状況であり、ここから着工までの道のりには、さまざまな曲折が予想される。だが、フォックス長官というLRTを成功させた黒人政治家が、リニアに試乗して調査にゴーサインを出したことで、ボルチモアに対して「LRTもリニアも両方進める」という方向での政治決着が見えてきたということの意義は大きいと思われる。
 

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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