米国が「リニア構想」進展に傾き出したワケ

政治的対立が残る中で調査費が承認された

2009年の就任直後に、オバマ大統領は全米に高速鉄道を建設するという構想を明らかにした。その背景には、民主党として8年ぶりに政権を奪還した中で、民主党「らしさ」を出していこうという政治的な意図があったと思われる。

就任直後に高速鉄道網計画を打ち出したオバマ大統領(撮影:日本雑誌協会代表取材)

というのは、鉄道というのはアメリカでは基本的には民主党のカルチャーに属するからだ。鉄道は固定インフラ投資ということから「大きな政府論」の民主党の思想と整合性が高いだけでなく、環境問題、雇用創出など多くの要素が民主党のイデオロギーに密着しているからだ。

これに対する共和党は、「小さな政府論」から公共投資を嫌い、労働組合を敵視する中で、温暖化理論にも否定的であり、交通機関としては自動車と航空機を好むカルチャーを持っている。

オバマの「高速鉄道構想」に関しても、例えばフロリダ州の「タンパ=オーランド=マイアミ線」などについては、州の共和党から何度も妨害が入るなど、基本的に民主党は推進、共和党は反対という対立構図になっている。

民主と共和、リニアでねじれ

だが、この「ワシントンDC=ボルチモア線」に関しては事情が少し異なる。ここでは、特にボルチモア側の民主党から反対の声が上がったのである。この問題には、2015年4月に発生した「ボルチモア暴動」が関係している。

この暴動は、黒人男性が警官に暴力を振るわれて死亡したことが発端となり、その男性の葬儀のため集まった群衆が暴徒化するなど一種の「人種間対立」に発展する中で、メジャーリーグの公式戦が「無観客試合」になるなど全米に衝撃を与える事件となった。

「人種間対立」の奥には人種差別と格差の問題がある。そして暴動を沈静化させるために奔走した黒人女性のステファニー・ローリングス=ブレイク市長、エリア・カミングス下院議員といった黒人政治家たちは、「人種差別と格差是正」のための政策を強く要求している。

この2人が「リニア構想」に懐疑的なのだ。理由は簡単で「そんなカネがあるのなら、格差是正に使え」というのである。具体的には、「リニア構想」よりも「レッドライン構想」を優先せよと強く主張しているのだ。

「レッドライン」とは、市を東西に走るLRTの計画で、実現すれば市内の5万人に恩恵があるとされる。自家用車の所有ができない貧困層にとっては、廉価な公的交通機関が整備されるということは、雇用の獲得に直結するからだ。

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