無名の新人俳優を主役に抜擢… 映画『栄光のバックホーム』が下馬評を覆して《興収10億円超えヒット》の背景

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松谷鷹也
11月28日にTOHOシネマズ新宿で行われた初日舞台あいさつに立ち、涙ながらに語る松谷鷹也。ここだけではなく、各地の舞台あいさつでは感極まって涙する松谷の姿が多く見られた(写真:配給提供) ©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

この映画がユニークなところは、映画界では無名の新人の主演映画ながら興収10億円を突破したということだろう。

もちろん松谷とともにダブル主演を務める鈴木京香の世間の知名度は非常に大きく、さらに高橋克典、前田拳太郎、伊原六花、山崎紘奈、草川拓弥ら著名なキャスト陣が脇を固めているということも、作品の知名度を高めることに大いなる貢献を果たしたとも言えるが、本作のヒットという点においてはそこから先の展開の部分が大きかったようにも思われる。

まさにスター俳優を起用して大々的なプロモーションを展開するという、近年の日本映画の定石からは外れたところでこれまでの熱狂を生み出している、という部分が特筆される。

主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける

本作のヒットにおいて、まず語るべきは元高校球児である主演・松谷鷹也の存在だ。俳優として活動するかたわら、本作のメガホンをとった秋山純監督の制作現場で制作・助監督なども務めていた松谷は、横田さんとの共通点が多いこともあって「この映画は松谷鷹也なしには成立しない」との理由で、本作の主演に抜擢された。

松谷は本作の企画立ち上げ当初から取材を通して横田慎太郎さんと交流を深め、横田さんから愛用のグローブを、松谷は初めて映画で着たシャツを贈り合う仲になった。

2013年のドラフト会議で阪神タイガースに2位指名され、阪神入りを果たした横田さんは、プロとして将来を期待されながらも、17年の春季キャンプ中に脳腫瘍という病魔に襲われ、翌年から育成選手となる。それでも最期まで夢をあきらめることなく病と戦い続ける姿は大きな感動を呼んだ。

そんな中で、19年の引退試合で見せた“奇跡のバックホーム”は今でも語り草となっている。さらに横田さんが旅立った23年には阪神が優勝。横田さんが着用していた背番号24のユニフォームが胴上げの輪に加わったことも多くのファンの涙を誘った。

そんな横田さんを演じるにあたり、映画の役作りのために、そして“奇跡のバックホーム”を完全再現するために、横田さんから譲り受けた大切なグローブと共に福山ローズファイターズの練習生として懸命に野球練習に励んだ。

プロデューサー陣や関係者からは「彼の中に横田さんの魂が宿っていた」と評されるなど、そのひたむきな演技が観客の心をつかんでいる。

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