開業は地域に大きな期待を生んだ。歩いてみると中心部はもちろん、市内のあちこちには使われていない蔵が点在している。
しかも、鹿沼では宿が足りていない。だが、新たにホテルを作ろうとしても中心部にはまとまった土地がない。それなら分散型のホテルの1室として蔵が使えるのではないかと周囲の人たちが気づき始めたのである。
「鹿沼は日光への途中でもあり、情緒ある町並みが残っていて新しい店も生まれ始めています。近隣の今市では宿、ゲストハウス、居酒屋などの集積が生まれ、海外の人たちが散歩する風景が見られるようになりました。鹿沼も蔵の宿をきっかけにもっと歩いて楽しい場に変えていければ」と風間さん。
新しいチャレンジができるまちに
実際、蔵のある銀座通り周辺では移住してきた人たちが作ったスタジオ兼図書館、2階がホステルになったショップ、上階がシェアアトリエになっている居酒屋、古民家を改修したカフェなどが続々誕生しており、それ以外にもいくつか動きがある。
特に驚いたのは川崎から移住してきたという26歳が経営する居酒屋だ。営業時間は都心でも少ない深夜2時まで。2025年2月に開業、あっという間に地元の若い人たちが集まり、週末には入れないこともあるほどの人気店になった。店主のくりたろうさんに話を聞くと「鹿沼には“関わりしろ”がある」という。
「人が少なく、空き家が多いので若い人が入り込む余地があり、自分の行動が影響する範囲が見え、自分でもなにかできるぞ、と思える場所なんです。新しいことをやる時にかかるお金が少なくて済むので、同世代でやりたいことを始めている人も多い。これが京都、日光だと若手に入り込む余地はほとんどありません」(くりたろうさん)
地元の若い人たちが出会い、そこから何かが新しく生まれていけば鹿沼はもっと変わりそうである。
考えてみると風間さんが不利な立地の場所から起業したのもくりたろうさんと同じ頃。それがいまや栃木県内では知らない人がいない、ファンの多い店に成長。若い世代を応援する立場に回っている。こうした循環が少しずつまちを変えていくのだろう。
さて、最後に宿としての蔵について。
私自身も何度か泊まったこともあるのだが、蔵の宿はいかつい外見と現代的な内装のギャップが大きく非日常が味わえる、壁が分厚いので中にいるとお籠もり感があって静か、中で騒いでも外には聞こえない、気温の影響を受けにくく快適に過ごせるなどが特徴。
ただし、窓が少ないので朝が来たことに気づかず、寝過ごしてしまうことがあり、どうやらこれは「蔵あるある」らしい。
総じて滞在が楽しい宿であり、これに目をつけてか、蔵を宿の1室として使う事業者は少しずつ増えている。前述のエンジョイワークスも日帰り客が多い川越市に蔵に泊まる体験を提供、宿不足に寄与しようと鉄道会社、川越市とともに現在プロジェクトを進めている。
全国の蔵を見て歩いている渡邉さんによると技術的、意匠的に素晴らしい蔵は秋田、ついで山形に多いとのこと。そのあたりも含めて、今後、放置された蔵が活用され、泊まりたくなる宿が増え、歩いて楽しい街が増えると楽しいのにと妄想する。
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