高市首相「台湾有事発言」から1カ月、今こそ冷静に考えたい《こじれた日中関係》を解きほぐすために欠かせぬ"糸口"

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ところが、11月7日の衆院予算委員会で、高市首相は立憲民主党の岡田克也元外相が、台湾有事が存立危機事態にあたるかとただしたのに対して、「すべての情報を総合して判断しなければならない」と述べたうえで、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になりうるケースであると考えます」と答弁。従来の「曖昧戦略」から踏み出す見解だった。

週明け10日の同予算委では、立憲民主党の大串博志議員が存立危機事態発言の撤回を要求。高市首相は撤回には応じなかったものの、自衛隊出動などについての具体的な言及は慎むとの考えを強調した。

それでも中国側は「台湾は中国の一部であり、自衛隊の出動は明らかな内政干渉」と反発。中国から日本への渡航自粛を求めたのをはじめ、日本産水産物の輸入再開の手続きを中止するなどの規制を強めた。中国外務省の報道官は連日、日本の姿勢を非難。中国共産党系のメディアも対日批判のトーンを強めている。

24日(現地時間)には、アメリカのドナルド・トランプ大統領が中国の習近平国家主席、高市首相と相次いで電話で協議。習主席が台湾問題は中国の「核心的利益」であるという原則を伝えたのに対して、トランプ大統領は理解を示したとみられる。トランプ大統領は高市首相に対して、台湾をめぐる日中間の対立を沈静化すべきだという考えを伝達したという。

日本側には「高市首相の答弁に問題はなく、台湾有事で存立危機事態となれば、自衛隊が出動するのは当然」という擁護論がある。メディアの中には、高市首相を問いただした岡田氏を非難する、筋違いの論調も見られた。これに対して「高市首相の答弁は従来の答弁から逸脱しており、直ちに撤回すべきだ」という批判も強まった。

こうした中で26日の党首討論では、立憲民主党の野田佳彦代表が改めて高市首相の見解をただした。高市首相は台湾有事の具体的なシミュレーションには触れず、従来の「曖昧戦略」の答弁を繰り返した。野田代表は「存立危機事態に関する発言を事実上、撤回したと受け止める」と語った。

政府側が答弁を軌道修正し、野党側も一定の前進と評価する――。首相と野党第一党の党首が、極論にくみせず、現実的な対応を探った動きのように見える。

混乱収拾の責任は誰が負うべきか

台湾有事をめぐる安全保障上の議論には細心の注意が必要だ。この地域で軍事的に台頭する中国に対して、アメリカが警戒を強めている。ただ、アメリカも日本も「台湾は中国の一部」という中国側の主張を大筋で了解している。

その中で10年前に安保法制が成立し、自衛隊とアメリカ軍との共同訓練などが活発化している。日米両国は、台湾有事への対応に「曖昧戦略」を取りつつ、中国に対する抑止力を徐々に高めてきた。

そうした状況下で、高市発言が中国の反発を招いた。事態沈静化のためには、高市首相が従来の方針に変更がないことを粘り強く説明し、自らの発言が招いた混乱を収拾する責任がある。

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