高市首相「台湾有事発言」から1カ月、今こそ冷静に考えたい《こじれた日中関係》を解きほぐすために欠かせぬ"糸口"

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日本は民主主義国家であり、言論の自由が保障されている。高市発言に対する擁護論も反対論も自由だが、政府や与野党の政治家は民主主義を守り、国益を最大化するという観点から議論を集約していくことが必要だ。

例えば、岡田元外相の質問は、野党が政府の安全保障政策を追及して、国民に提示するという点から当然のことであり、それに対する誹謗中傷は不当であることを与野党が明確にしなければならない。

さらに、「曖昧戦略」から踏み出した高市答弁は慎重さを欠いたという共通認識も重要だ。そうした点で日本国内の議論が集約できていけば、日本の民主主義の成熟度を国内外に示すことになるだろう。

これに対して、中国は言論の自由などが大幅に制約されている国家だ。共産党の指揮命令の下で、渡航規制や輸入制限のほか、対日批判の論調が繰り広げられる。SNS上では、日本への旅行を推奨する意見や日本の芸能人の公演中止に対する不満が散見されるが、広がる様子はない。中国側は、日本国内の動向を見極めながら、対日批判のトーンを調整していくとみられる。

防衛省によると、12月6日午後、沖縄本島南東の公海上空を飛行中の航空自衛隊機に対して、中国海軍の戦闘機がレーダー照射を行ったという。戦闘にもつながりかねない極めて危険な行為であり、小泉進次郎防衛相は7日未明の緊急記者会見で「極めて遺憾であり、中国側に強く抗議した」と語った。

日中双方の政治リーダーに求められるもの

日本はかつて、中国を侵略し、多大の被害を与えたという重い歴史を背負っている。1972年の日中国交正常化以降、日本側は侵略戦争に対する反省を明確に示し、両国関係の改善に向けた努力を重ねてきた。

中国は経済成長を成し遂げ、2010年にはGDP(国内総生産)で日本を追い抜き、軍備も増強。その中国と日米同盟が向き合っているのが台湾問題である。

日米両国は「一つの中国論」を認めながらも、中国の台頭を抑止していくという微妙な立ち位置にある。そうした事情を考えれば、存立危機事態をめぐる高市首相の発言に注意深さが欠けていたことは間違いない。

日本側は今後、どう対応していくのか。高市首相は台湾有事をめぐる具体的なシミュレーションなどへの言及を避け、従来の答弁を繰り返しながら、中国との歩み寄りを模索していくことになる。

高市首相と習主席との首脳会談を含め、閣僚級などハイレベルの接触は当面、難しそうだ。それに代わって、経団連(日本経済団体連合会)など経済団体の交流の機会を探ることになる。さらに、超党派の日中友好議員連盟(会長:森山裕前自民党幹事長)のメンバーの訪中などで事態打開を目指す動きも出てきそうだ。

中国側も不動産不況などで経済が低迷する中、日本からの投資への期待は強い。高市答弁という思わぬ出来事によってこじれている日中関係を解きほぐすには、日中双方の政治リーダーによる知恵と行動が求められている。

星 浩 政治ジャーナリスト

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ほし ひろし / Hiroshi Hoshi

1955年生まれ。東京大学教養学部卒業。朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部デスクを経て政治担当編集委員、東京大学特任教授、朝日新聞オピニオン編集長・論説主幹代理。2013年4月から朝日新聞特別編集委員。2016年3月からフリー。同年3月28日からTBS系の報道番組「NEWS23」のメインキャスター・コメンテーターを務める。著書多数。『官房長官 側近の政治学』(朝日選書、2014年)、『絶対に知っておくべき日本と日本人の10大問題』(三笠書房、2011年)、『安倍政権の日本』(朝日新書、2006年)、『自民党幹事長』(ちくま新書)など。

 

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