四号玉のボールは、速度がつくと重く硬い。三度目にボールは奈央の横顔に当たり、平手打ちされたような痛みを覚えて、一瞬目の前が真っ暗になった。
「顔面セーフ! 顔面セーフよ!」
捕球しない限り、狩りは終わらない。この長方形のコートの中で、ずっと的にされ続ける。
次に男子が投げたボールを、奈央は顔面で受けながらも捕球した。ボールを投げた男子はぽかんと口を開く。その彼に向かって、助走をつけて思い切りボールを投げる。
意表を突かれた男子は、あとずさる途中でバランスを崩して尻もちをついた。ボールは男子の腕に当たってコート外へ弾け飛ぶ。そこでチャイムが鳴った。昼休みの終了を告げるチャイムだ。木村が駆け寄ってきて、明るい声で言う。
「すごいじゃない! 楠木さんも、やればできるじゃない!」
奈央は荒い呼吸のまま、じんじんと痛む目頭を右手で押さえた。左目だけで見る狭い視界の中に、木村の顔が見える。木村は恍惚としたようなうっとりとした瞳で、こちらを見つめていた。
また一緒にドッジボールやろうね、そう言い残して、木村は校舎へ駆けていく。
奈央は顔から右手を放して、手の平を見る。瞼が切れたのか、手の平には紅色の鮮血が伸びていた。
保健室で保健の先生に目頭を消毒してもらいながら、奈央は四月の学級会を思い出していた。
学級委員長に立候補した木村明美
二年二組の担任は、安田という新任の男性教師だった。その安田先生が、最初の学級会で学級委員長の立候補を募った。一年のときは、誰も立候補しなかった。だから長い話し合いの末に、各班から一名の候補者を出して多数決を採った。
同じように、責任を押しつけ合うような長い話し合いになるだろうと思った。真っ先に手を挙げる生徒がいた。木村明美だった。他に挙手はない。それであっさり学級委員長に決まってしまったのだ。
木村はたぶん、内申点のために立候補したのではない。責任ある役割を務めたかったわけでもない。じゃあなんのために──。
「女の子なんだから、あんまりやんちゃしちゃダメよ」
何も知らない保健の先生は、呆れたような笑みを浮かべる。
脱脂綿のアルコールが染みて、奈央の瞳にはわずかに涙が滲んだ。
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