結衣は絵を描くことが好きで、将来はイラスト関係の仕事をしたいともらしていた。SNSにアップしているイラストは、中学生とは思えないほど上手で、結衣の夢はきっと叶うだろうと思った。クラスに友達は結衣しかいなかったが、でも結衣がいたから、普通の学校生活を送ることができた。
その普通の学校生活は、クラス替えで一変した。二年二組に南野小学校の生徒は三人だけで、そのうちの二人が男子で、だから奈央は五月を迎えても学級に馴染めずにいた。そのころにはクラスに三つの女子グループができていた。奈央はどのグループにも属せなかった。
そして五月半ばから始まった校内合唱コンクールの練習を機に、状況は悪化していった。
初めて人に褒められた
奈央は元々、唄うことが好きだった。それは小学生のとき、音楽の時間に歌のテストで先生に褒められたからだった。楠木さんは、透き通った綺麗な声をしてるね。勉強も運動も苦手な奈央にとって、ほとんど初めて人から褒められた経験だった。
それ以来、奈央は家でこっそり歌の練習をした。母がパートに出かけて留守のときなどに、流行りの曲を音楽に合わせて歌ってみる。
正直、自分では上手いのかどうかよく分からない。試しにスマホで録音して聴いてみる。確かに透き通った声をしているが、ときどき音程を外しているし、自分の声を自分で聴いていると恥ずかしくて赤面する。
でも歌を唄っていると、心が洗われていくような不思議な気持ちになった。将来は音楽に関する仕事がしたいな、子供ながらに思った。
そのせいもあって、奈央は合唱コンクールの練習に人一倍熱心に取り組んでいた。その姿勢が、逆に女子グループの反感を買った。
──普段は無口なくせに、なんで合唱のときだけ大きな声で唄うの?
──自分で歌が上手いと思ってるんでしょ?
──バランスが悪くなるから小さな声で唄って。
──誰にも聴こえないくらい小さな声で唄って。
みんなに口々に不平を言われ、奈央は押し黙って背中に脂汗を滲ませる。と、その場の空気をがらりと変えるような快活な声が教室に響く。
「ねぇ、どうしてみんな楠木さんに冷たいの? クラスメイトなんだから、仲良くしないとダメだよ」
それが二年二組の学級委員長を務める、木村明美だった。



















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