ゴーン日産の野心、「ダットサン」を復活、新興国の覇者を狙う
低価格へ高いハードル 開発は約3カ月遅れ
それでも実現のハードルは決して低くない。あるサプライヤー(部品会社)の幹部は、「3カ月近く開発が遅れている」と打ち明ける。
最大の理由は日産が想定するターゲットプライスに入っていないことだ。サプライヤーには今、日産から明確なターゲットプライスが提示されており、タイ産マーチよりも3~4割低い水準といわれている。
前述のサプライヤーはダットサンの専用設計を試みたが、価格面の条件を満たせなかった。「現地材料の活用はもちろん、スペックを徹底的に見直したものの、それでも届かなかった」(同社幹部)。現在は再設計に挑んでいる最中だ。
たとえ日産自身は準備万端でも、サプライヤーもまた供給体制を整えなければならない。日産系最大のカルソニックカンセイは、11年夏から新興国で幹部級技術者の採用を本格化させている。ダットサンの競合車は日系ブランドでなく現地ブランド。実験段階を含め、すべて現地で完結しなければ、太刀打ちできない。「うちの最大のボトルネックは人。ローカルのエンジニアを拡充しないと、新興国市場の拡大についていけない」(呉文精社長)。
日系のサプライヤーにとっては、インドやロシア、インドネシアでの供給体制も課題になる。日本車のシェアが高いインドネシアは別にしても、特にロシアで供給体制を持つサプライヤーは少ないからだ。
さらにダットサンの実現にはもう一つ課題がある。販売サービス網の整備だ。特に新興国ではアフターサービスの充実が必要になる。インドの量販車については「補修部品が道端で売られているような世界」(競合メーカー幹部)。残り2年余りの短期間で、サービス網を立ち上げるのは容易でない。
しかしゴーン社長は、そんなことは百も承知だろう。開発が遅れぎみの中で、ダットサン構想をあえて公表したのも、必ず実現するという強烈なメッセージだ。市場は確実にある。ならば、やらないでどうする。その姿勢に迷いはない。