日米共同声明、中国の軍事的台頭背景に日米軍事態勢の再構築へ

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これに対して、長らく中東地域に足をとられていた米国は、今年1月にアジア重視の新軍事戦略を公表し、2月には在日米軍再編と普天間問題を切り離すことで日本側と合意した。そして、首脳会談直前の4月27日に在日米軍再編見直しの中間報告として共同文書を公表したが、日米共同声明の具体的な軍事的内容はこの文書に示されている。

主な内容は、沖縄に駐留する海兵隊(定数1万9000人)のうち、9000人(当面8600人)を国外に移転するというものだ。内訳はグアムに4000人、ハワイに2600人、米本国に800人、オーストラリアに1200人となるようだ。

沖縄に残る部隊は、第3海兵遠征軍司令部、第1海兵航空団司令部など司令部や支援部隊が中心で、実戦部隊は高い即応態勢を保つ第31海兵遠征隊くらいである。グアムには第3海兵遠征旅団司令部と、実戦部隊の主力となる第4海兵連隊などが移る。つまり、当初の移転構想とは逆に、司令部機能が沖縄に残り、実戦部隊が国外に去ることになる。

米軍は中国の弾道ミサイルを恐れている。特に沖縄は、台湾をターゲットとする中国の1000基以上もの短距離弾道ミサイルの射程に入っており、その第一撃で大損害を被る可能性がある。グアムは中国の中距離弾道ミサイルの射程内にあるが、その数はさほど多くない。

沖縄に駐留する海兵隊を、対中軍事戦略上の拠点となっているグアムを中心に分散させることは、リスクの軽減となる。また、アジアにおける主たる軍事的緊張地域は、もはや北東アジアではなく、南シナ海など東南アジアに移っている。沖縄からは遠いのである。

普天間基地については、辺野古への移転を「唯一の有効な解決策」としているが、米国上院の重鎮議員たちの顔を立てて、嘉手納基地への統合案も考えられるような表現となっている。しかし、どちらも沖縄県内移設に変わりなく、沖縄の反対を考えれば、容易には実現しそうにない。それで先延ばししてきた普天間基地の補修に着手することになった。

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