2つの政治事件に見る中国の変わらぬ伝統 次期指導者を決める全人代の前に起きること

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 文化大革命中に、毛沢東が配下の最高位にあった劉少奇を追放した際には、劉少奇の夫人が、不道徳な退廃とぜいたくを象徴するピンポン玉の首飾りを掛けられ、街中を引き回された。また、その毛沢東が死去した後には、毛沢東の妻、江青が逮捕され、中国版マクベス夫人の役割(野心家タイプの悪女)を演じさせられた。今は薄の妻である谷開来に殺人の容疑がかけられているが、これもまたこの種の政治劇の一環なのかもしれない。

実際に、薄の失脚に伴い、夫人のみならず家族全体にも影響が及んでいる。これもまた中国の伝統だ。家族の誰かが罪を犯すと、家族全体がその責めを負わされる。

薄が、資本主義を批判する庶民派を標榜し、毛沢東主義の倫理感を強硬に推進する役割を演じてきたことからすると、共産党内における薄の政敵は、自由市場資本主義や、事によると何らかの政治改革を支持するリベラル派のボスのように見えてくる。温家宝首相は、このリベラル派のリーダーに見えるかもしれない。温首相は、民主改革の必要性を訴え、公然と薄を批判してきた。

今後、経済の自由化をさらに推進しようとする中国共産党が、より開かれた社会を許容していく可能性がないとは言い切れない。しかし、その逆もまたありえる。つまり、貧富の差が拡大し、経済格差に抗議の声を上げる国民が増えるにつれて、体制側が反体制派への弾圧を強めるというシナリオだ。

このような弾圧は、共産主義を守ろうとするものではない。むしろ逆に、「中国共産党ブランドの資本主義」を守ろうとするものだ。このように理解すれば、薄が失脚を余儀なくされる一方で、陳とその家族のような反体制派にとっては、外国大使館へ駆け込むという手段が、残された一か八かの選択肢となることに、なるほどと合点がいく。

(週刊東洋経済2012年5月19日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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