タイタニック号見学ツアー事故で進行していたタイタンの損傷。層間剥離と小型旅客船舶規制の指摘が示す深海での備えとは
これらの証拠から、NTSBはタイタンの耐圧シェルが通算80回目の潜水終了時に浮上した際、シリンダーの接着層間の空隙からひとつ以上の層間剥離が発生し、その結果耐圧シェルの劣化と強度低下が発生した可能性が高いと結論づけている。
通算81回目と82回目のタイタニック号への調査潜水は無事に完了している。つまり、80回目の潜水で発生した層間剥離はまだ強度的にタイタンの圧壊につながるほどの損傷ではなかった。だが、その次にタイタニック号へと赴いた(そして事故になった)88回目までの間に、耐圧シェルではさらに損傷が進行したはずだ。
オーシャンゲートは、83回目の潜水終了から事故発生までの間にタイタンの取り扱いに複数の変更を加えていた。これが耐圧シェルの損傷を進行させた可能性がある。まず事故発生前の冬には、保管にかかるコストを減らすためにタイタンをカナダの屋外に放置していたことがわかっている。その間、タイタンの耐圧シェルは、毎夜氷点下にもなる極端な温度変化に晒された。
また2023年の調査では、タイタンは従来の探査のように支援船上に搭載されるのではなく、支援船の後方に設置されたLARS(陸揚げ・進水システム)で曳航された。
この曳航距離は外洋で約2900マイルにも及んでいだ。このような場合、タイタンは振動、衝撃荷重、転覆などの影響に曝され、船体に曲げやたわみ、せん断、側方からの衝撃を受ける可能性があったと考えられる。NTSBの報告書では、実際にタイタンをLARSに載せて曳航している最中に、曳航ケーブルの偏りによりLARSが大きく傾いている写真がみられる。
これらの損傷や劣化の蓄積が、タイタンの耐圧シェルの健全性や安全性にどのような影響を与えるかについてラッシュCEOは理解していなかった(もしくは意図的に無視していた)と考えられる。NTSBは、ラッシュ氏が問題を軽視し続け、RTMシステムのデータ分析に欠陥があったせいで、直ちに運用を停止する必要があることを認識できず、最終的に船体の圧壊につながる局所的な座屈破壊を引き起こした可能性が高いとした。
事故発生時の対応にも不備
ほかにも、NTSBはオーシャンゲートが緊急事態における捜索救助の規定を含む対応基準(NVIC 05-93)に従っていなかったことを指摘している。オーシャンゲートの元幹部によると、この業界では潜水の現場またはそれに近い場所に2台目の有人潜水艇または水中ドローンを用意するものであり、緊急時の救助訓練を実施しておくのが慣例だという。
もし、同社がこの慣例に従っていれば、潜水艇が自力で浮上できない場合に備えて、調査潜水の日時にあわせて事前に適切な救助対応の準備や人員のスタンバイをしておくことができたはずだ。



















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