タイタニック号見学ツアー事故で進行していたタイタンの損傷。層間剥離と小型旅客船舶規制の指摘が示す深海での備えとは
しかし、この警告を受け入れようとしなかったラッシュCEOは、技術主任を解雇してしまう。その後、オーシャンゲートは当時ノースロップ・グラマンがメリーランド州アナポリスで運営していた深海試験施設にタイタンを持ち込んで検査を行った。その結果、前の技術主任が言ったように耐圧シェルが劣化しているのが確認された。この段で、ようやくラッシュ氏は有人調査潜水の中止を決定し、耐圧シェルを新しく作り替えることを決めたという。
事故の予兆だった「大きな音」
前技術主任が安全性に関する指摘をしていたにもかかわらず、ラッシュCEOは新しい耐圧シェルもカーボン素材で製造することにこだわった。一方、耐圧シェルの両端部を閉じるエンドキャップは、既存のものを使い続けることにした。
新しい耐圧シェルで再構築されたタイタンは2021年に完成した。そしてタイタニック号の沈没現場への到達に必要な水深3840mをわずかに上回る、4200mまでの潜水に耐えられることも、複数回の試験によって確認された。
その後の記録によれば、2021年から2023年にかけて、タイタンは13回にわたってタイタニック号の沈没現場への調査潜水を行い、いずれも成功している。ただ、この間の2022年に行われた、タイタン潜水艇にとって通算80回目の調査潜水では、タイタニック号の沈没現場から帰還するために浮上中のタイタンから、いつもとは異なる「大きな音」がした。
タイタンには、耐圧シェルの構造的健全性を監視する「リアルタイムモニタリング (RTM) システム」が搭載されていた。これは物質に亀裂や変形が発生したときに発生する弾性波を検出するアコースティックエミッション(AE)センサーと、円周方向および縦方向のひずみを検出するゲージを、それぞれ8つずつタイタンの各部に装着して構成されるものだ。そして、その計測データはコンピューターに継続的に記録され、あらかじめ設定された閾値を超える音が船体から発生した場合に警告を発する。
80回目の調査潜水での音は、このRTMシステムの閾値を完全に超えており、破裂するような音響データと、一部のひずみセンサーの指示値の急上昇を記録していた。
NTSBは、それ以降の調査潜水におけるRTMシステムのデータも確認したが、この80回目を境にして音響データの波形と、一部のひずみセンサーが記録したデータに多くの変化があったという。
そして、潜水艇タイタンは通算88回目の潜水で事故に至った。NTSBが事故後に引き揚げたタイタンの調査では、5層のカーボン積層構造のうち、第1層と第2層および第3層と第4層の間に空隙の発生が見られた、剥離によって生じた空隙には、摩擦と摩耗粉が堆積しており、それはタイタンが圧壊する前に、耐圧シェルのカーボン素材に層間剥離が発生して問題が進行していたことを示していた。



















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