翻弄される南相馬市小高区の住民 除染後回しで警戒区域を解除
だが、汚染度が最も低いとされる避難指示解除準備区域でありながらも、年間積算線量20ミリシーベルトを超えることが確実な高濃度汚染地域が点在がしている。山あいにある松倉さん宅の庭先でも、市職員による計測で放射線量が12マイクロシーベルト/時(年換算100ミリシーベルト超)もの高濃度の汚染が見つかった(庭先の平均放射線量は2.5~3マイクロシーベルト/時)。
一方、松倉さんの自宅からほど近い杉林の先は年間20ミリシーベルトを超す可能性が高いことを理由に、「居住制限区域」に組み込まれた。ここでは農作業など一切の生産活動の再開が禁止されている。林道を進むと300メートルほど先は、警戒区域に指定されたままの浪江町に入る。南相馬市と浪江町の境では巨大なバリケードが来訪者の前に立ちはだかっている。
「震災前の生活を取り戻すのにいったい何年かかるのか想像もできない」と松倉さんは肩を落とす。
常磐線に近い小高区泉沢の杉義行さん(72)の自宅周辺の放射線量は、松倉さん宅よりも1ケタ低い0.2~0.3マイクロシーベルト/時程度だ。固い地盤の上に建てられていることもあり、杉さんの自宅は大きな被害を受けなかった。松倉さんと同じく鹿島区の仮設住宅で暮らす杉さんは「できるだけ早く自宅に戻りたい」と語る。
ただ、上下水道などのインフラ復旧は未着手。現在は3段階のうちで最も放射線量が低い「避難指示解除準備区域」に組み込まれているが、「自宅で生活できる見通しについては、国や市から何の説明もない」(杉さん)。
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