がん検診一筋の60代医師が「ステージ4」の進行がんに。《毎年検診を受けていたのに…》それでも「やっぱり検診は必要」揺るがぬ考え
「“しこりはコロナワクチン接種の副反応だろう”とか、“骨折は硬い雪をかいたからだろう”とか、自分に都合のよい解釈をしていましたね。でも、今思うと、いずれもがんがもたらす症状だったわけです」
そして3月18日。毎年行っているがん検診で肺がんが見つかった。肺のX線写真には、左の肺尖部(せんぶ)というろっ骨の下に白い影が写っていた。
また、両肺には白い斑点がいくつも確認できた。その日の午後にCTを撮るなどいくつかの精密検査を受けた結果、白い影は腺がんというタイプの肺がんで、リンパ節や骨、脳にも転移していることがわかった。
1年で肺がんが転移する? これって見落としでは? そう思うかもしれない。だが、松田さんは去年も自身で肺のX線写真をチェックし、影が“見えていない”ことを確認している。
「これは本当に稀なケースだと思います。これまで30年以上にわたって、13万人以上の肺のX線写真を見ていますが、こういうことは一例もありませんでした。だから、今のがん検診のやり方がおかしいとか、責めるつもりはさらさらないです」
やっぱりがん検診は必要
医師としてがん検診一筋30年。毎年、自身も検診を受けてきたのに、がんが見つかった。
松田さんはそれでも「やっぱりがん検診は必要」と訴える。それは「受けたほうが、受けないより効果がある」ことを実感しているからだ。
検診業務に松田さんが興味を持ったのは、「健康な人を見る仕事」だったからだ。早期のがんを見つけ知らせる、どう伝えるのがその人にとってベストか……。受診者の背景を考え、その人のその後の“がん人生”への向き合い方を示す。そんなことにやりがいを感じていた。
一方で「がん検診を長く、専門的にやっている医師があまりいない。がん検診の実態をわかっている人が皆無」と日本のがん検診の現状を嘆く。
「国は『受診率を上げましょう』って言っていますよ。でも、これまでやってきたがん検診がうまくいっているのか、検証されていない。何より『うまくいっていない』なんて少なくとも彼ら――厚労省の人たちですが、は絶対に言わない」
がん検診はがんを早期に見つけ、がんで亡くなる人を減らすのが、本来の役割だ。
だが、日本のがんによる死亡率は、世界のなかでは依然として高いままだ。例えば、IARC(国際がん研究機関)の「世界がんレポート」で松田さんが専門とする大腸がんの死亡率※(2022年)を見ると、日本(7.4)はアメリカ(5.3)やイギリス(5.9)、フランス(7.1)、ドイツ(5.8)より高い。隣国の韓国(5.1)からも大きく差を開けられている。
※年齢調整死亡率 10万人当たりの死亡率(男女)


















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