さて、そこでみなさん、考えてみてください。
慢性腎臓病の患者さんが「腎臓が悪いなら安静にしていなくちゃダメだ」という昔の誤った治療方針を真に受けて、ずっと家でじっとしていたとしたら、どういうことが起こるでしょう。
当然、みるみるうちに筋肉量が落ちて身体機能が低下してしまいますよね。慢性腎臓病を患っている人は普通の人よりも筋肉が落ちやすいことが分かっています。しかも、慢性腎臓病の患者さんの多くは高齢者であり、とくに70代以上になると筋肉の減少スピードがグッと加速することにもなります。
筋肉量をごっそり落とした人がその後どういう末路を辿るかは、もうみなさん十分にご存じかもしれません。筋肉量や筋力の低下が急速に進むと「サルコペニア」(筋肉減少症)と呼ばれる状態に陥って、運動機能が大きく低下します。日常の歩行が不安定になると、転倒した拍子に骨折してしまい、そのままベッドから離れられなくなるケースも少なくありません。
さらに、サルコペニアが悪化すると、いっそう身体機能が低下し、体重減少や運動機能の低下も加わって「フレイル」と呼ばれる衰弱状態に陥ります。そして、このフレイルのすぐ先にはたいへん高い確率で「寝たきり状態」が待ち受けていることになります。
腎機能を低下させる悪循環スパイラル
それに、安静は、腎機能に対しても直接ダメージをもたらします。
腎臓には心臓が送り出す血液の4分の1が流れ込んでいるのですが、安静によって筋肉量が低下すると血液を全身に循環させる力も落ちて、腎臓に十分な量の血液が入ってこなくなります。これによって腎機能低下がいちだんと加速してしまうのです。
また、慢性腎臓病の患者さんの中には(昔流の治療方針に従って)厳しい食事制限をしている人も多く、そういう方々の中には全体の食事量を減らしてしまったりたんぱく質摂取を減らしてしまったりして栄養不足に陥る人も目立ちます。こうした栄養不足に陥ると、自分の体の筋肉を分解してたんぱく質を補うシステムが働いて、筋肉量がよりいっそう減ってしまうのです。
しかも、この「筋肉→たんぱく質」の分解が進むと、結果的にたんぱく質を大量に食べたのと同じことになり、これが腎臓に大きな負担をかけることになります。まさに腎機能を低下させるマイナスのスパイラルが回り始めたようなものであり、こうした悪循環ダメージが重なると、みるみる濾過機能が低下して、短期間で人工透析になってしまうことも少なくないのです。


















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