"星野リゾート"と全く異なる戦略で大成功の温泉旅館!社長が語る"非効率"貫く経営の勝算とは
旅館サービスの中で最も象徴的な仕組みが「仲居の完全担当制」です。ホテルではフロント、ドアマン、レストランスタッフと分業が徹底されていますが、旅館では一人の仲居が宿泊客に最初から最後までお世話をしていきます。その仲居のサービスが、お客様の旅の満足度を大きく左右し、ときに旅そのものの思い出の中心になるのです。
接客の最高峰とは何か――その問いに対する一つの答えが、この仲居の完全担当制だと思います。お客様に近距離で寄り添い、ときに家族のように、また友人のように心を通わせる。お客様が帰り際に涙を流して仲居へ感謝を伝える姿は、旅館という文化が持つ力を雄弁に物語っています。効率性を優先した仕組みでは、決して生まれない光景です。
「非効率」が生み出す価値
私が経営する浜の湯では、あえて「非効率」を大切にしています。例えば、ハードリピーター向けのプライベートバーラウンジ。3回以上の宿泊歴があり、公式ホームページや電話で直接予約をしてきたお客様に限り、赤白のワインやスパークリングワイン、軽食を自由に楽しめる場を提供しています。そこには専任スタッフを常駐させ、サービスを担当するだけでなく、お客様との会話や情報収集に努めています。
余計なコストや人件費がかかり、経営的に見れば非効率かもしれません。しかし、お客様とのコミュニケーションを深め、次の宿泊に活かすための貴重な接点です。ここで得られる信頼と顧客情報こそが、長期的な経営を支える資産になっています。
また、昔ながらの「朝茶」のサービスも継続しています。朝、仲居がお部屋の布団を上げる際にお茶を届け、会話を交わす。些細に見える習慣ですが、この積み重ねが仲居とお客様との関係を深め、旅の印象を大きく左右するのです。若い経営者の中には「そんなサービスがあったのか」と驚く人もいますが、これこそが旅館文化の本質といえるでしょう。
さらに、料理提供にも非効率を貫いています。50室以上ある中で、仲居が一品ずつ料理をお部屋に届けるために、仲居と調理場をつなぐ「内務係」を配置。温かい料理は温かいうちに、冷たい料理は冷たいうちに提供するためには人手を惜しみません。この非効率さが、「部屋でくつろぎながら心ゆくまで食事を楽しむ」という旅館ならではの体験を守っているのです。


















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