東京に"異変"ミシュラン二つ星が10年で半減の過酷な現実 東京で星を取るのがなぜ難しくなったのか

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ここで、今回の東京のセレクションの変化から何が読み取れるか、一歩引いて全体像から見てみたい。

東京ではここ数年「星の獲得が難しくなった」という話を多く耳にする。それもそのはず、「10周年」と記されたいまから約10年前(17年)には54軒あった二つ星が現在は26軒と半減、一つ星の軒数もここ数年は年を追うごとに漸減気味だからだ。

セレクテッドに掲載されたレストランのシェフからは、以前よりハードルが上がった感のある一つ星・二つ星になかなか手が届かないという声を聞く。特にイタリアンではその嘆きが深く、東京都内に約7000軒ある(25年10月現在「食べログ」東京都全域で「イタリアン」カテゴリーに掲載の軒数)イタリア料理店の中でミシュランガイドに掲載されているのは51軒、星つきの店はわずか6軒しかない。

「星は以前より確実に取りづらくなっている」というのは、シェフをはじめ、東京のレストラン事情を知る人たちの共通認識だ。

恵まれている環境だからこそ、星を取るのが難しい

東京で星を獲得するのがなぜ難しいのか。今年新たに一つ星を獲得したフランス料理店「マージ(mærge)」のシェフ、柴田秀之氏は「東京では星を取るのに2つの異なる能力が必要になってきたからです」と、次のように述べる。

マージ
今年新たに一つ星を獲得したフランス料理店「マージ(mærge)」の店内(筆者撮影)

「東京でレストランをやり続けるのは本当に難しくなりました。レストランをやり続けることとおいしい料理を作ることは、水泳とやり投げくらい違う能力が必要です。かつてはおいしい料理を作ること=(イコール)良いレストランだったのですが、東京ではここ7~8年で両者がまったく別のものになり、そしてその両方が求められていると感じています。

料理を作る環境が世界で一番恵まれているのは間違いなく東京だと思います。適切に処理された食材がちゃんと時間通りに届く、そんな都市は世界でまれです。ただし東京は競合が多く、極端に図抜けていないと星は取れません。

そしてその中で二つ星、三つ星とさらに上を目指すには、自分の店が旅の目的地になることが必要だと思っています。『そのために旅行する価値のある』、つまり『ぶっちぎりにおいしい』ではなくたとえば浅草寺のような観光名所。変わっていく時代に合わせて、僕たちも変わらなければいけない。挑戦者であり続けることが重要だと思っています」

ミシュラン
今年新たに一つ星を獲得したフランス料理店「マージ(mærge)」にて。店名はフランス語の「額縁・余白」と英語の「合わさる」を重ねた造語だ(筆者撮影)

東京は交通網が整備され、海外のゲストも多くは航空機で東京に降り立つ。流通システムは効率的に機能し、食材は豊富で、料理を彩る四季がある。日本にいると当たり前のこれらも、海外ではそのいずれか、あるいはいずれも望めないことが多い。

だから海外から見ると、東京は相対的にはレストランを営業する環境としては恵まれた要素が多く、だからこそより良いレストランがひしめいているともいえる。

来年はミシュランガイドが東京でセレクションを発表して20年となる。節目を迎える来年に、また新たな視点でのミシュランガイドによる「おすすめの店」が、きっと見られるに違いない。

星野 うずら レストランジャーナリスト

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ほしの うずら / Uzura Hoshino

出版社勤務のかたわら、アジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。個人サイト「モダスパ+plus」やTwitter(@caille2006)で、「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などガイドブックの解説記事やレストラン評を執筆。飲食専門のポータルサイトでシェフインタビュー連載中(飲食店.com)。Instagram(@photo_cuisinier)では、飲食に携わる人のポートレートを撮影している。
 

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