「かっこいいけどイケイケじゃない」 実写映画『秒速5センチメートル』に《松村北斗が必須だった》ワケ 批判されがちな実写化、なぜ成功した?
サラっと書いてしまったが、「新海誠の初期の精神」とは何だろうか。
ここでは、『君の名は。』で大ヒットを出す前の段階を「初期」とさせてもらうが、初期の新海作品は、ボーイミーツガールの物語であり、思春期の男性の主人公と女性ヒロインの気持ちが近づくも、最終的には結実せずに終わるような物語が多い。
アニメ版『秒速~』も、思春期に心を寄せ合うものの、最終的には大人になった2人が出会えないまま終わっていく。ハッピーエンドのラブストーリーではない。だからこそ大ヒットはしなくても、人の心に残り続けるような作品だったのである。
主人公が結実しなかった恋を想い続けるように、観客も心の中で作品を引きずり続けたのかもしれない。

なぜ原作ファンも納得したのか
だが、16年に大ヒットした『君の名は。』のラストシーンは、主人公の男女2人が出会う場面で終わる。
これは、それまでの新海誠セオリーに反した終わり方ではあるが、メジャー映画としては正解で、結果的に興行収入250億円突破の国内歴代4位(日本映画では2位)という、日本映画史に残る大ヒットとなった。
その後、新海の名は一気にメジャーになり、今回の実写映画化も、それゆえに実現した企画といっていいだろう。いまや「初の新海誠作品の実写化」というだけで、かなりの観客を惹きつけることができる。
だが、そのメジャー化した新海誠の名前で集まってくる観客と公開規模を意識して、実写版『秒速5センチメートル』を安易なハッピーエンドにしてしまったら、アニメ版のファンから大きな反発をくらうだろう。
また、63分を121分にすることで足されるエピソードも、原作の世界観を壊すようなものであれば、逆効果になりかねない。
※次ページより、ネタバレを含みます。
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