「うちはみんなSサイズ」…まるで"プロのモデル"のような先輩がいる職場で陥った摂食障害。この泥沼から抜け出すには?【事例で紹介】

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また、Jさんのような人の被害を受けやすい人の特徴として、実はJさんと似たような傾向を持っている人が挙げられます。

Jさんは、自分たちの信じる美の基準について「すべて受け入れるか、まったく受け入れないかのどちらかしかない」という考えを持っています。岡野さんもまた、真面目で「全か無か思考」(認知の歪みのひとつであり、白黒はっきりさせようとする傾向)の思考パターンの持ち主です。

岡野さんの「全か無か思考」は、Jさんに嫌われたらおしまいだという考えや摂食障害になるほどのダイエットにも表れています。

筆者は、岡野さんは心身ともに出勤できる状態ではないと考え、至急、産業医面談と同時に心療内科を受診するよう勧めました。岡野さんが職場の産業医に相談したところ、胃腸科や精神科のある総合病院を紹介されたそうです。

受診先では、「神経性過食症」と「抑うつ状態」と診断されました。それで岡野さんはいったん休職し、しばらく実家に戻りました。

彼女は休職中、規則正しい食生活をしていくうちに“ありのままの美しさ”とはなにかを深く考え、栄養学や心理学に興味を持ちはじめたそうです。そのうち、「もっと勉強して自分の能力を活かせるような仕事に就きたい」と考えるようになり、大学院への進学を決めて化粧品会社を退職しました。

ルッキズムが強い環境で陥る問題

岡野さんの職場のようなルッキズムが強い環境では、外見に自信がない人は、自己肯定感が低くなることが多く、心理的なストレスを抱えやすくなります。たとえ、客観的に美しくても、人と比べてしまうことがクセになっていると「もっと美しくなりたい……」とキリがなくなっていきます。

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さらには、そのような職場のコミュニティは、個人の意見よりも集団のルールや価値観に従うことを求めがちです。

「美しい人だけを受け入れる」という価値観が強い場合、「美しくなければ認められない」というプレッシャーが過度な美容意識につながり、異常なダイエットや整形手術の増加などにつながることがあります。

“美しさ”が評価される職場では、メンバーの美意識が高くなります。身近な同性である同僚と自分を比較してしまうのは、自然な流れかもしれません。

しかし、そのことばかりを気にしてしまい、体型のイメージや体重の増減と自分の価値を結びつけるのは、不健康な思考です。

フランスやイタリアなどではモデルのやせすぎを規制しています。日本でも厚生労働省の注意喚起などにより、職場が女性の体型に対して偏った価値観を持たないよう、健康と美に関する研修を取り入れる動きも始まっています。

舟木 彩乃 心理学者、公認心理師、精神保健福祉士、官公庁カウンセラー

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ふなき あやの / Ayano Funaki

心理学者(筑波大学大学院博士課程修了/ヒューマン・ケア科学博士)。公認心理師、精神保健福祉士。官公庁カウンセラー。株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」(筑波大学大学院専攻長賞受賞)。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や地方自治体の メンタルヘルス対策に携わる。Yahoo! ニュース エキスパート オーサーとして「職場の心理学」をテーマにした記事・コメントを発信中。
 

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