「うちはみんなSサイズ」…まるで"プロのモデル"のような先輩がいる職場で陥った摂食障害。この泥沼から抜け出すには?【事例で紹介】
岡野さんは、筆者が面談をしたときには、すでに摂食障害が疑われる状態でした。
摂食障害は、極端な食事制限やむちゃ食いエピソード(短時間に大量の食べ物を摂取する)を繰り返し、その罪悪感から体重の増加を防ぐための代償行動(自己誘発性嘔吐や下剤の乱用、過剰な運動など)を繰り返す「神経性過食症」が代表的です。
摂食障害発症の原因として、仕事や対人関係などのストレスが挙げられています。岡野さんの場合は、ここにルッキズムの問題が加わります。
ルッキズムが生じやすくなる状況のひとつに、「もっと美しくないと受け入れてもらえないのではないか」などの関係不安を感じる環境があります。岡野さんは、特にJさんに対して大きな関係不安を感じ、彼女に受け入れてもらえなければ終わりだと思っていたようです。
関係不安は、自分が相手から評価を受ける立場であるという状況で、生じやすいものとなります。
Jさんの言動の背景にあるものについても考察したいと思います。
外見至上主義の職場では、Jさんのような人が権力を持つであろうことは、容易に想像できます。このような人と働くことになった場合、最初は憧れなどから一緒に働けることを光栄に思う人もいるでしょう。
岡野さんもまた、新人研修で颯爽と講師をしているJさんの姿を見たとき、自分はこの人と同じ職場で働ける「あっち側」(ハイブランド)の人間になるのだと誇らしい気持ちになりました。
外見至上主義の人の価値観とは
Jさんには、おそらく次のような価値観があったと考えられます。
●理想的な社会的ステータスの維持
Jさんたちの売り場は、職場内外から「美しい美容部員だけがいる売り場」と認識されることで、評価や価値が向上することが暗黙の了解になっています。
特にJさんは、ステータスが高いとされる売り場の中心的な美容部員としてのプライドを持っていて、岡野さんに対する数々のアドバイスからも、この売り場のステータスを下げる人は許せないという思いがありそうです。
●美醜に対する固定観念
組織側の課題でもありますが、岡野さんの職場は、「美しい外見=仕事ができる人」という固定観念が根づいている印象があります。
Jさんは、この職場において魅力的とされる外見の基準を“美の正解”と思っており、これに合わない人には無理をしてでも合わせてもらうことで、理想的な売り場を維持しようとしているのでしょう。
不安な顔をする岡野さんにSサイズの制服を勧めたことも、彼女を陥れることが目的ではなく、Jさんの固定観念や売り場のステータスを維持するという彼女なりの正義だったと考えられます。
Jさんのような固定観念が強い人と働くことになった場合、ある程度はマイペースを貫くことが必要です。
自分の中で、できること・できないことの境界を決めて、できる範囲を超えた要求(高級化粧品の購入など)をされた場合は、断る勇気が必要になります。特に岡野さんの場合、新人であり金銭的にも余裕がない状態で高価な化粧品を買わなければならないことも、ストレスとなっていました。
もし、直接Jさんに断ることが難しい場合は、上司などにも相談するべきだったでしょう。


















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