10円駄菓子《ヤッターめん》"ダサいい"シール80種を徹夜で手描きする71歳社長。かつての漫画少年の夢は駄菓子という舞台で花開く
「どんな柄がいいかいつも迷う。あまり複雑だとキャラが死んでしまうやろ。そんなに目立たず、なおかつおいしそうな、お菓子っぽい背景でいつも悩んでる。ベタすぎてもいかんし」

予算の制約もある。目を引くような色使いにはしたいが、箱に色数を4色以上使うと、1色につきプラス1万円かかることも。そのため企画段階で、「どの部分にどれだけお金を回せるか」のコストも合わせて考えている。売れると判断した駄菓子は、できるだけフルカラーに。売れ行きがわからないものは、モノクロにすることもある。
そして、大変なのはここからだ。ジャック製菓の駄菓子には、購入につなげるための付加価値として、おまけのシールを入れる商品がいくつかある。同じシールばかりだと子供が飽きてしまうため、駄菓子を1種類つくるためには、最低でも70~80種類の図柄が必要となる。「それぐらいあったら集める子も出てくるやろうから」と中野さん。
たとえば、世界の歴史人物をテーマにしたミンツ菓子「この人だ~れ?」には、ジャンヌ・ダルクや武田信玄など「歴史人物」のイラストシールが入っている。裏側には40文字ほどで、その人物についての説明入りだ。
イラストは、歴史の本などから探してきてアレンジし、約2.5cm角のシールのスペースに収まるように描いた。背景も変えて、1から描き直しをしたそうだ。裏の説明は辞書を引き、主要なところだけひっぱり出したという。
それを70種類。ものすごい作業量だ。

「ただのおまけだからこそ飽きられないようにしてる。できるだけ商品ごとにタッチも変えて描いてるね」
おまけは、シール以外の場合もある。手や足の上において、水につけたら柄がうつる「写し絵」には、花柄や動物、入れ墨風のハート柄などを描いている。
このような新商品を、以前は3カ月に1つ発売していたそうだ。

アイデアの源は「一軒丸ごと」の書庫
「おまけは一番最後の工程だから急かされる。3日3晩寝ずに描いたこともあるなあ。僕さえ頑張れば、ちょっとでも早く商品ができるから。最初の10、20種は苦労せずにポンポンアイデアが出るけど、後になるほど困るねん」
当然だろう。アイデアは枯渇しないのだろうか。
そう聞くと、アイデアを得るための秘密の場所に案内してくれた。会社の2軒隣にある、一見、普通の家だ。だが、入ってみてびっくりした。キッチンにも本、階段にも本。とにかく本、本、本……。2階建ての家が一軒まるごと、書庫になっていたのだ。


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