10円駄菓子《ヤッターめん》"ダサいい"シール80種を徹夜で手描きする71歳社長。かつての漫画少年の夢は駄菓子という舞台で花開く
最も意識しているのは、子供が普段使っている言葉と、イラストのインパクトだ。例を上げれば、看板商品「ヤッター!めん」(以下、ヤッターめん)の名前の由来は、くじに当たった子供が、「ヤッター! 当たった!」というからヤッターめん。フタに描いたチャイナ服の謎のキャラクターは、子供の頃に読んでいた漫画の記憶にヒントを得たものだ。

イラストは、以前はインクや墨を使って全部手描きしていた。20年ほど前から「しんどなって」色付けだけデジタル作業に。それでも輪郭は手描きしてPCに読み込んでいる。
「駄菓子屋さんに置く駄菓子なので、きれいすぎるデザインは似合わん。チープさとダサさを出すためには、手描きでちょうどいいねん」
その言葉の裏には、たしかなブランド戦略がある。「あえて」チープで、「あえて」ダサく、子供が手に取りたくなる面白さを追求した結果なのだ。個性を際立たせるために、時代に逆行するデザインを意図的に選んでいる。それは同時に、駄菓子という文化が持つ、どこか懐かしく、温かい世界観を壊さないための、緻密な計算でもある。
この中野さんの発想と画力は、どこで培われたのだろう。

漫画家に憧れた少年時代と広告研究会
小学生の頃は、漫画少年だった。『鉄人28号』『おそ松くん』に夢中で、将来の夢は漫画家。Gペンを買って原稿を描いたこともあるが、漫画家入門の本に「毎晩徹夜」と書いてあるのを見て、「これは無理や」と諦めた。

さらに小6のとき、父に漫画を禁止されてしまう。兄弟三人でそれぞれが『少年マガジン』『少年サンデー』『少年キング』を買って回し読みしていたら、家中漫画だらけになってしまったからだ。
小学校卒業後は、漫画を買いも読みもしなくなり、そこから漫画と距離をとることになった。
ところがジャックに入社後すぐ、封印した漫画に近い仕事をすることに。外注していたある駄菓子のキャラクターイラストが「いま一つやな」と感じたのだ。けれど、描き直しには金も時間もかかってしまう。そこで、「もう俺が描くわ」と、自分から言い出したそうだ。
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