「がんばりたくてもがんばれない」のメカニズム。そのとき、私たちの身体の中では何が起きているのか、自律神経との深い関わり

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従来、自律神経は交感神経と副交感神経の2種類で構成されていて、リラックス状態の時は副交感神経が働き、活動したりストレスがかかったりすると交感神経が働くというように、通常はシーソーのように拮抗した作用を示すと考えられてきました。

しかし、1994年にアメリカの精神生理学の研究者であるスティーブン・ポージェス博士により、自律神経は三元的構造からなっているという「ポリヴェーガル理論」が提唱されました。これは今でも改訂され続けている発展途上の理論ですが、心身の不調を理解するために役に立ちます。

ポリヴェーガル理論では、副交感神経の80%を占めるとされる迷走神経は、「腹側迷走神経」と「背側迷走神経」の2系統に分かれ、これに交感神経を加えた3種類で自律神経は構成されていることになります。さらに、安全安心を感じられる状況か、危険を感じる状況か、生の脅威を感じる状況かによって、3系統の自律神経が切り替わって環境に対応すると説明します。

いのちを守るためのモード切り替え機能

周りが安全安心を感じる状態だったり、家族や気の置けない仲間と一緒にいてリラックスしたりしている状態の時などは、哺乳類になってから獲得した新しい迷走神経である腹側迷走神経複合体が働きます。

一方、環境が変化し、周りからストレスがかかったり、危険を感じたりすると、その状況に対応するために交感神経が働きます。危険に対して闘うか逃げるかの行動を取ったり、締め切り前に徹夜で頑張ったりするのも、交感神経の働きによるものです。自ら動いてなんとかするためのアクセルのような働きをしていると言えるでしょう。

交感神経優位の状態が長く続いた時、自分で頑張ってもどうにもならないような「生の脅威」とも呼べる状況に陥った時、体調不良の時などには、進化的に古い背側迷走神経複合体に切り替わり、凍りつき(フリーズ)やシャットダウンと呼ばれる状態になります。この状態が長く続くと、心が病んでいき、うつ病のような症状も表れます。背側は、動かないことでいのちを守るためのブレーキのような働きをしていると言えるでしょう。

3種類の自律神経のうち、腹側が優位の状態がよくて、交感神経や背側が優位の状態が悪い、ということではありません。自律神経のどのモードも、その時々に応じて、いのちを守るために必要なことが起きているだけなのです。

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