北朝鮮、36年ぶりの党大会開催を決めた理由 金第1書記は経済運営に自信を深めている

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もちろん、気になるのは第7回党大会の中味だ。慶應義塾大学法学部の礒崎敦仁准教授(北朝鮮政治)は、「党中央政治局決定書」に特段の注目点がないと指摘、「現時点で具体的な計画を持って党大会の開催が決定されたとは考えにくい」と言う。ただ、礒崎氏は「党大会という節目を迎える金正恩政権にとっては、人民生活の向上を成果とするためにも、対外関係との改善を模索してくることが予想される」と述べた。

同時に、祖父、父の時代から続いた「非常体制」を正常な体制へ移行・安定化させ、自らの唯一領導体制を確立させる節目として利用するだろう。日本や米国をはじめ、対外関係に党大会開催がどのような影響を及ぼしてくるか。開催までの北朝鮮側の動きが今後も気になるところだ。

以下、 礒崎・慶應義塾大学准教授の話を掲載する。

対外関係改善を模索してくる可能性大

「2015年元旦に金正恩第1書記が新年の辞を発表した時点では、朝鮮労働党創建70周年を迎える今年に35年ぶりの党大会の可能性もあると考えていたが、来春開催というのはちょっとしたサプライズだ。

党創建70周年行事が一段落したところで決定した模様であり、4月15日の金日成誕生日(太陽節)行事後の落ち着いたタイミングを見計らったものと思われる。党大会と前後して、最高人民会議も開催されるだろう。

党大会開催を半年以上前に公表するというのは定石通りであるが、スピード感をもって次々と新政策を打ち出す金正恩第1書記の性向とは異なる。また、30日の『労働新聞』1面に大きく掲載された党中央委政治局決定書は、内容に特段の注目点が無く、現時点で具体的な計画をもって党大会開催が決定されたとは考えにくい。

2010年の第3回党代表者会は金正恩公式化の場として、2012年の第4回党代表者会は金正恩体制が公式に出帆する場として準備された。つまり、明確な開催目的があったということだ。一方、今回開催が発表されたのは党大会であるため、何らかの実質的な舞台装置というよりも、金正恩時代の繁栄をアピールするなど象徴的な役割を担うことになる。

金正恩政権としては、36年ぶりの開催という事実だけでも、体制の安定性、盤石性を内外にアピールできると考えているのであろう。北朝鮮では、半年後の開催に向けて経済、内政、外交、軍事等の諸分野で成果が急がれることになる。今後、北朝鮮メディアの論調を分析することで、何が議題になるかが少しずつ見えてくるはずだ。人事については、世代交代が進むことになる。

最高指導者の意向が政策に強く反映される北朝鮮のような国では、当然のことながら内政と外交のリンケージの度合いが大きい。端的に言えば、党大会という節目を迎える金正恩政権にとっては、人民生活向上を成果の一つとするためにも対外関係の改善を模索してくることが予想される。日本としては、北朝鮮のいかなる変化も見逃さず、拉致問題をはじめとする懸案問題の解決に向けて粘り強く交渉していく必要があるだろう」

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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