野田首相は「5つの歴史の教訓」に学ぶべき

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野田首相は「5つの歴史の教訓」に学ぶべき

塩田潮

 消費税増税法案の国会提出から2週間余りが過ぎたが、いまも成立のメドは立っていない。衆参ねじれで、民主党内は対立、与野党の歩み寄りはなく、国民の反対も根強い(16日発表の朝日新聞の調査で「増税反対」は51%)。普通に考えれば不成立と映る情勢だ。

 野田首相は「不退転」「政治生命を懸けて」と熱いハートで増税一直線だが、ここはクールな頭で「歴史の教訓」から学ぶべきだろう。

 消費税の歴史を振り返ると、過去に5つの大きな出来事があった。1978~79年の大平首相の一般消費税導入計画、87年の中曽根首相の売上税騒動、88年の竹下首相の消費税実現、94年の細川首相の国民福祉税構想の頓挫、94~97年の村山首相と橋本首相による消費税率の5%への引き上げである。

 大平首相は蔵相時代の赤字国債発行開始の責任感から、行政改革などの先行作業抜きに一般消費税導入を打ち出し、不評で79年の総選挙の直前に撤回したが、選挙で敗北した。中曽根首相は行革や不公平税制是正などの先行作業をきちんと済ませたのに、86年の衆参同日選で「大型間接税はやらない」と明言し、直後に売上税法案を持ち出して「嘘つき」と言われて廃案を余儀なくされた。

 用意周到の竹下首相は自民党内の結束や関係業界への根回しなど手抜かりなく進め、消費税導入に成功した。細川首相は説明不足で「税率7%は腰だめの数字」と口走り、1日で白紙撤回となる。94年に村山首相の下で成立した増税法案の実施前に総選挙を行った橋本首相は、自民党内の実施凍結論を抑えて選挙に挑み、勝利を収めて97年に増税を実現した。

 ここから5つの「教訓」を読み取ることができる。

 増税実現の条件は、(1)先行作業、(2)ごまかしと嘘はノー、(3)与党内の結束、(4)国民への説明、(5)ぶれない決意だ。野田首相はいまのところ、ぶれない決意だけが合格で、残りの4点は及第点に届いていない。与党内の結束は未達成、国民への説明も不十分だが、歳出削減や経済活性化プランなど先行作業の無策は致命的である。

 今国会の会期末の6月21日までに4点が合格点に達しなければ、「増税なき野田憤死」という結末になりかねない。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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