復権のために小沢一郎が乗り越えなければならない壁

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復権のために小沢一郎が乗り越えなければならない壁

塩田潮

 民主党内で小沢一郎元代表が100人以上の大勢力を率いて「反増税・反野田」で走っている。今後、消費税増税法案の採決での反対投票、内閣不信任案での棄権または賛成投票を予想する声も強い。そうなれば、増税法案は不成立、野田佳彦首相は内閣総辞職か解散・総選挙かという場面に遭遇し、次に民主党分裂・政界大再編という展開となる可能性もある。

 だが、小沢氏は「政権交代可能な二大政党政治」が持論で、「民主党政権の産みの親」である。膨大なエネルギーを注いでつくり上げた「二大政党政治」と「民主党政権」をぶち壊すようなことを本当にするのだろうか、という疑問も付きまとう。事実、強制起訴の後に離党論が噴出しても拒否し続け、「党内野党」としてにらみを利かせている。

 小沢氏は今後どう出るか。結論から言えば、26日の判決次第だろう。有罪なら離党となりそうだが、無罪なら「野田体制と対決か融和か」という選択を迫られる。

 小沢氏の想定シナリオは「無罪・復権・政権奪取」に違いないが、復権後の政権奪取戦略は描き切れていないのではないか。9月の民主党代表選での一発勝負はリスクが大きい。野田首相の墜落待ちの「ポスト野田」狙いという手もあるが、いずれにしろ民主党政権の立て直しが必要だ。党内で多数を握れないなら、政界再編を仕掛けて、違う形の新二大政党をつくり上げて政権を握る道もあるが、時間とエネルギーがかかりすぎる。

 無罪獲得の場合、小沢氏は政治リーダーとして越えなければならない壁が残っている。取り沙汰された疑惑に関する国会での説明責任、勝負に弱くて運がないという不運イメージの払拭、国民の期待感の再醸成だ。何よりも国と国民の将来をどういう形と姿にしたいのか、目指す政治のグランドデザインがはっきりしなくなっている。

 「増税の前にやるべきことがある」という小沢氏の主張は正論だが、将来像と処方箋が見えないために、「反増税」もパワー維持と権力闘争のための理屈と疑われる。経済、国民生活、財政を含めた「新小沢プラン」の用意がなければ、復権を果たしても、賞味期限切れとなりかねない。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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