「助けてください」涙の土下座で迫る人事部長――同情心を食い物にする「採用ノルマ」の狂気
「近くまで来ています。昼休みに会えませんか。上層部から『早く決めろ』と迫られているのです」
岩崎の心は大きく揺さぶられた。あくまでも、職場環境の改善と従業員の心のケアに取り組み続ける自分でありつづけるべきか。
相手の「失言」で流されずにすんだが…
だが、部長の次の言葉が決定打となった。
「社長も『誰でもいいから連れてこい』と言っています。あなたが駄目なら、他の誰かを紹介してください」
通話の背後では、アジア系の言葉で怒鳴る声が響いていた。
――私を必要としているのではない。単に人員を欲しているだけだ。
そう気づいた岩崎は、毅然と告げた。
「強引な入社勧誘は職業安定法に抵触します。目的のために手段を選ばない行為は理解できません。ここは日本です。日本の法律に従ってください」
かつて教え子たちに伝えた言葉を思い出した。
「自分を大切にすることも、優しさなんだ」
いまや空前の人手不足。採用担当者は厳しいノルマを課され、時に違法で強引な勧誘に走る。
休職者や転職希望者の心の機微を突き、同情心や善意を利用するケースもある。岩崎の事例は、本来「企業と人材の相互理解の場」であるカジュアル面談が、採用担当者の境遇を押しつけられる「死のバトン」に変わった典型例だった。
転職に必要なのは能力だけではない。「お人好しをやめること」もまた重要な適性だ。岩崎はお人好しだったが、なんとか踏みとどまった。魑魅魍魎が跋扈する転職市場では、相手の事情を過度に考慮しないことこそ、成功への第一歩なのである。
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