「助けてください」涙の土下座で迫る人事部長――同情心を食い物にする「採用ノルマ」の狂気

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ある日、転職サイトに登録していた岩崎のもとへ、小売業の人事部長からメールが届いた。都内で十数店舗を展開し、インバウンド需要で業績を伸ばしているという。その内容は「イベントがあるので、一度見学に来ませんか」というカジュアル面談の誘いだった。応募前に企業理解を促す目的で開催される場と説明されている。

メールの送り主が人事部長であったこともあり、岩崎は興味を持って足を運んだ。

「学校の先生の経験は、必ず人事の仕事に生きるはずです」

「職場のいじめをなくしたいという志に感銘を受けました」

部長は岩崎の経歴や仕事観を把握し、やさしく語りかける。その姿に、岩崎も心を開きかけていた。

しかし突然、部長が「あなたの部下になる女性をご紹介します」と合図をすると、派手なスーツを着た数人の女性が入室してきた。

「彼女たちは今は私の部下ですが、入社後はあなたが指導する立場になります。人事部長として采配を振るってほしい」

単なるカジュアル面談が、歓迎セレモニーのように変わっていった。教育現場でしばしば問題になる“同調圧力”を感じ、岩崎は困惑した。

「失礼ですが、私は御社に応募した覚えもありません」

土下座で懇願、優しさにつけ込む手口

女性たちを退室させると、部長の表情は一転して深刻さを増した。

「実は我が社は、数年前にアジア系企業に買収されました。現経営陣はその国の人々です。即断即決が文化なのか、昼夜休日を問わず指示命令が飛んできます。即座にチャットで返信しなければ厳しく叱責される。達成不可能なKPIを課され、未達なら徹底的に糾弾される。『日本人はその程度か』と侮辱されるのです。酷いと思いませんか」

部長は肩を震わせながら訴えた。

「ならば退職されたらよろしいのでは?」と岩崎が返すと、部長は苦しそうに言った。

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