死亡事故も発生、テスラの「ドアハンドル」が危険な理由とは?「固着する」「開かない」など不具合に関する苦情は2018年以降140件以上に

消防士のマックス・ウォルシュ氏が煙を目にしたのは、「車両火災・中に閉じ込められている人がいる」との緊急メッセージが同氏のスマートウオッチに流れたのと、ほぼ同時だった。
ウォルシュ氏は非番だったが、1分も経たないうちにバージニア州北部の交通量の多い交差点に到着した。そこでは、電柱に衝突したテスラの「モデルY」が炎上していた。
以前にも電気自動車(EV)の火災に対応した経験のあるウォルシュ氏は、衝突後に電動ドアが作動しない恐れがあり、手動解錠装置は見つけづらく、EVが搭載するバッテリーセルはガソリンよりも激しく燃えることを理解していた。この状況では、一秒一秒が命取りとなる。
「もし自分がドアを開けられていたら」
テスラ車に駆け寄ると、運転席のドアは開かなかったが、窓ガラスにひびが入っていた。ウォルシュ氏は素手でそれを叩き割り、中へと手を伸ばしたが、その際に自らもやけどを負った。
「ドアを開けようとして、『いったいどこに非常用のレバーがあるんだ?』という感じだった」とウォルシュ氏は振り返った。手動で開く装置を見つけられなかった同氏とその友人は、運転手のヴェンカテスワラ・パスマルティ氏を割った窓の間から引きずり出した。
「車内にほかに誰かいるのか」と叫ぶウォルシュ氏に、パスマルティ氏は「妻」と一言だけ発した。
助手席にいたススミタ・マディ氏はエアバッグで身動きが取れなくなり、炎は車内に侵入しようとしていた。電気系統は停止し、ドアは開かない。煙が濃くなる中、通りがかった人たちも窓を割ろうと必死に窓を叩いた。救助隊が油圧カッターを持って到着した時には、マディ氏は肺に恒久的な障害が残るほど有毒ガスを吸い込み、顔に重度のやけどを負っていた。
この2023年12月の事故について、「人が焼かれていくのを見ることほど、恐ろしいものはない」とウォルシュ氏は最近のインタビューで語った。「もし自分がドアを開けられていたら、救助隊が到着する前に2人とも助け出せていたはずだ」と悔やんだ。