死亡事故も発生、テスラの「ドアハンドル」が危険な理由とは?「固着する」「開かない」など不具合に関する苦情は2018年以降140件以上に
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の下、テスラは革新的なデザインと卓越したエンジニアリング、優れた安全性能によって評価を築き、時価総額1兆ドル(約147兆円)規模の企業に成長した。同社は最近X(旧ツイッター)に「愛する人にはテスラに乗せよう」と投稿している。
だが、テスラは政府認定の衝突試験で好成績を収める一方で、車体埋め込み式のドアハンドル、電気制御で手動の解除といった特徴が、乗員や救助隊を惑わせている。そのせいで事故発生直後の数分が、生死を懸けた時間との闘いになることもある。
バージニア州での事故は、この矛盾を浮き彫りにした一連の事例の一つに過ぎない。昨年11月にはカリフォルニア州でテスラの「サイバートラック」が木と壁に激突して炎上し、車内に閉じ込められた3人の学生が死亡。同月にウィスコンシン州では「モデルS」で火災が発生し、5人が死亡した。この事故では前席に遺体が集中していたことから、脱出に苦闘した可能性を示唆している。
中国では完全埋め込み式のドアハンドルの禁止を検討
今年春にロサンゼルスで起きたサイバートラックの事故では、乗車していた全米代表のバスケットボール選手が窓を蹴破り、通行人が脚を引っ張って救出したため一命を取り留めた。
こうした事態に、当局の対応は遅れている。中国では完全埋め込み式のドアハンドルの禁止を当局が検討していると報じられた。欧州では、事故後の救助や脱出手順を改善する段階的な措置が講じられた。
一方、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)はブルームバーグ・ニュースに対し、本記事で取り上げた事故は把握しており、当局が記録するデータベース上でテスラのドアに関する苦情が増えていることを認めたものの、実際の対応はほとんど取っていない。
問題の一因は、衝突試験が衝撃時の生存可能性を測るよう設計され、事故後に乗員が迅速に車外へ脱出できるかどうかは問題にされていない点にある。
「テスラのエンジニアは自動化に突き進むあまり、事故後に人体に何が起きるかを見落とした」と、ヒューマンファクター・エンジニアリングを専門とするニューヨークのコンサルティング会社マウロ・ユーザビリティ・サイエンスの創設者、チャールズ・マウロ氏は指摘した。「マスク氏の発想は『走るコンピューター』だが、ドアロックの設計の欠点は見過ごされた」と語った。
テスラは最初のモデルを設計するにあたり、従来のエンジン車とはかけ離れた、流線型のセダンをコンセプトとして求めた。2012年に登場した「モデルS」は、車体を平らにすることで空気抵抗を減らし、風切り音を低減。これは航続距離を伸ばし、エンジン音でかき消されないノイズを最小限に抑えることにも貢献した。