ストーカーの中でも特殊なタイプ《神戸女性殺害事件》谷本将志容疑者(35)を異常行動に駆り立てた衝動とは?

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こうした事件が報じられるたびに、特に女性は「自分も被害者になるかもしれない」と感じ、防犯ブザーを持つ、防犯カメラのある場所を選んで歩く、帰宅ルートを工夫するといった対策を講じている。社会全体として防犯意識が高まることは重要であるが、潜在的被害者側にだけ負担を押し付けることには限界がある。

加害者は自ら変わろうとしない

言うまでもなく、悪いのは加害者であるのだから、本来もっと注目すべきは「加害者予備軍への治療」である。ストーカー行為の加害者は再犯率が高く、自発的に治療に取り組む人はごくわずかで、ある調査ではわずか6%程度にとどまるとされている。つまり、ほとんどの加害者は「自ら変わろうとはしない」のである。

だからこそ、強制的に治療や介入を受けさせる法的枠組みが必要ではないかということを強く主張したい。認知行動療法や動機づけ面接といった心理学的アプローチは、一定の効果を示しており、確かなエビデンスがある。再犯防止のためには特に早期の治療が欠かせない。

悲惨な事件を教訓として、今行うべきことは、被害者にならないように自衛策を求めることだけではない。加害者予備軍の治療こそが最大の防犯になり、社会全体の安全を守ることにつながるのである。被害者の無念に報いるためにせめてわれわれができることは、法律や制度の改正を真剣に議論し、より安全な社会を実現していくこと以外ないだろう。

原田 隆之 筑波大学教授

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はらだ たかゆき / Takayuki Harada

1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。筑波大学教授。保健学博士(東京大学)。東京大学大学院医学系研究科客員研究員。主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた心理臨床である。テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている

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