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日本の「再生医療」、フロントランナーの現在地/重症心不全、パーキンソン病・・・さまざまな疾患で日進月歩で進む研究開発の"最前線"

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大阪万博ヘルスケアパビリオンの目玉となった「iPS心臓」(写真:時事通信)

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2006年、山中伸弥(京都大学)が、あらゆる細胞の元となる幹細胞であるiPS細胞を発見(体細胞からiPS細胞作製に成功)、わずか6年後の12年にノーベル賞に輝いた。輝かしい未来、再生医療立国を実現する日本の姿も想起された。
13年、私は『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)と問うた。それから10年以上が経過した今、再度その答えを探している。連載第1回では、日本の再生医療を切り開いてきたフロントランナーの足跡を追う(敬称略)。

2025年は、再生医療にとって飛躍の年だった。

トクン、トクン、トクン……燃えさかる命のような赤色の培養液の中、規則的な拍動を繰り返す、直径3cmのiPS心臓。55年ぶりに関西で開催された万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。象徴的な展示の1つが、日本初のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製されたミニ心臓だった(心臓モデルや心筋シートの一部は、大阪・中之島の未来医療国際拠点「中之島クロス」で万博レガシーとして公開予定)。

再生医療のフロントランナーは、ゴールを捉えている。ツートップは、iPS細胞由来の心筋細胞シートの澤芳樹(大阪大学特任教授)、同じくパーキンソン病治療薬を開発している高橋淳(京都大学iPS細胞研究所所長)だ。

承認に向け動き出したiPS細胞

「再生医療」と聞いて、傷付いた、あるいは機能の衰えた臓器を丸ごとスッポリと付け替えるイメージを思い浮かべる人もいるかもしれない。残念ながら、万博で展示されていたiPS心臓は、iPS細胞を注入したコラーゲンの「心臓の立体モデル」で、血液を循環させて心臓の機能を代替できるものではない。

しかし、その横で同じように拍動していたクラゲのような円形シート(直径3.5cm、厚さ0.1mm)こそは、「本物」だ。大阪大学発のバイオベンチャー、クオリプスは25年4月、虚血性心筋症による重症心不全を対象に、ヒト(他家)iPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認を厚生労働省に申請した。iPS細胞由来の再生医療等製品としては世界で初めてとなる。8月には住友ファーマが、RACTHERAと共同開発中のiPS細胞由来のパーキンソン病薬を申請。承認が待ち望まれている。

iPS心筋シートは、既に8人の患者に届いている。いずれも重症の虚血性心筋症で“万策尽きた”状態で、心臓移植以外に悪化する心機能を改善する治療法はなかった。

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